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6.涙雨(3)
するすると藤吉は山を登り、やがて枇杷の木が茂るあの沢が見えて参ります。
雨に煙る向こう岸に、白い影。
愛しい伽耶の輪郭が、祠の脇で着物の膝を抱えておりました。
「伽耶……、伽耶あああああああああ……っ!」
藤吉は迷わず沢に飛び込みました。
豪雨に荒れ狂う沢は、藤吉の体を呑み込もうとします。
藤吉は必死に手で水を掻き、足で水を蹴ろうとして――そして、気が付きました。
己の胸から下が、白く大きな蛇の姿に代わっていることに。
「藤吉さん……!」
伽耶がこちらに気が付きました、伽耶は泣きぬれた顔を上げて立ち上がり――。
白い着物の裾から覗くその体は、輝く鱗に覆われた、白蛇のそれでした。
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