2.白蛇(3)

1/1

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

2.白蛇(3)

 白蛇は改めて藤吉に向き直り、まるで礼でもするかのように(こうべ)を垂れました。  やがてくるりと(きびす)を返し、(すべ)らかに沢を渡ってゆきます。  沢の向こう岸には古びた小さな(ほこら)がありました。  きっと昔の人が、沢の水神様をお(まつ)りしたものでございましょう。  祠の後ろには、切り立つ山肌が迫っております。  沢を上がった白蛇は祠の前で立ち止まり、もう一度藤吉を振り返りました。 「ありがとうなぁ、枇杷の木のこと、教えてくれて。もう鳶には、見つかるなよぉ!」  口に手を当て声を掛けた藤吉。  ほどなく白蛇は、祠の向こうの山に姿を消しました。  あの白蛇は、水神様の使(つか)いだったのかもな。  藤吉は不思議な思いに満たされながら、ありがたく枇杷の実をもいでは背負子を満たします。  背中に感じる枇杷の重さは、それを食して(つな)がる命の重さに(ほか)なりません。  藤吉はとても涼やかな気持ちで山を下りながら、けれどもあんなに鳶が夢中になる山鼠とは、やはり美味(うま)いのだろうかなと、次に見つけたら思い切って食ってみようかなと――そんなことをただあてもなく、考えていたのでした。 * * * *
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加