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2.白蛇(3)
白蛇は改めて藤吉に向き直り、まるで礼でもするかのように首を垂れました。
やがてくるりと踵を返し、滑らかに沢を渡ってゆきます。
沢の向こう岸には古びた小さな祠がありました。
きっと昔の人が、沢の水神様をお祀りしたものでございましょう。
祠の後ろには、切り立つ山肌が迫っております。
沢を上がった白蛇は祠の前で立ち止まり、もう一度藤吉を振り返りました。
「ありがとうなぁ、枇杷の木のこと、教えてくれて。もう鳶には、見つかるなよぉ!」
口に手を当て声を掛けた藤吉。
ほどなく白蛇は、祠の向こうの山に姿を消しました。
あの白蛇は、水神様の使いだったのかもな。
藤吉は不思議な思いに満たされながら、ありがたく枇杷の実をもいでは背負子を満たします。
背中に感じる枇杷の重さは、それを食して繋がる命の重さに他なりません。
藤吉はとても涼やかな気持ちで山を下りながら、けれどもあんなに鳶が夢中になる山鼠とは、やはり美味いのだろうかなと、次に見つけたら思い切って食ってみようかなと――そんなことをただあてもなく、考えていたのでした。
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