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3.日照り(2)
そんな藤吉の重たい心を散じたのは、弾むような女の声。
「藤吉さ……ん!」
藤吉のお下がりの藍の着物を纏ったその女。
名を、伽耶と申しました。
伽耶は下り坂の畦道を、駆けるように降りてきます。
たくし上げた裾から覗く白い脛が、藤吉の目に眩しく映りました。
迎えに来てくれたのか。
駆け寄る伽耶に、藤吉は微笑みを返します。
藤吉は田のことをしばし忘れて、うたかたの幸福に身を委ねました。
伽耶がここにいることが、今でもまだ夢のよう。
藤吉は伽耶を見つけた朝のことを、ぼんやりと思い出しておりました。
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