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3.日照り(4)
藤吉の看病の甲斐あって、最初は床に臥せるばかりだった伽耶も、段々と起き上がる時間が増えてまいります。
田仕事を終えて帰る家の竈から、煙が立っていることの嬉しさ。
おかえり、ただいま、と交わす言葉が、藤吉の心を深く満たします。
やがて互いに身を寄せ合った、ひと夜がありました。
ただ一度と思ったそれは二晩となり、三晩を重ね、それでも伽耶は藤吉の元を去ろうとはいたしません。
離れがたい時間が十を過ぎる頃、藤吉は伽耶と重ねた夜を数えなくなりました。
伽耶が誰でも、もう構わねぇ。
藤吉は思います。
伽耶はきっと、山からの授かりものだ。
あの枇杷のように――山の神様がおらに、下さったんだ。
胸にかかる伽耶の息の暖かさ。
藤吉は生まれて初めて腹ではなく心が満ちる幸せを、感じていたのでございます。
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