幕末の章

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 両親が渋っていることが、鉄次郎には意外だった。よくも悪くも、次男坊の鉄次郎はほったらかしにされていた。家督は年の離れた兄の清太郎(せいたろう)が継ぐことになっているし、その息子である兼助(けんすけ)も数年のうちに元服して嫡男として家を守っていくことになるだろう。鉄次郎が京へ行こうがどうしようが、高野家にとってはどうでもいいことのはずだった。   「兼助もいるのですから、家のことは問題ないでしょう。むしろ食い扶持が減るのですから、悪い話ではないと思いますが。しかも、新選組に入れば賄いの他に給金も出るとありました。こちらに仕送りすれば、母上やトクの内職も少し減らせて楽になるのでは」 「そういう問題ではありませぬ」 「うーむ。……鉄次郎、そもそもお前は本当に試験に受かると思っているのか?」 「もちろんです。山浦道場では、きっての腕前だと皆が評してくれています。久蔵先生はもっと励めとおっしゃいますが、それも私に期待を寄せてくださってこそかと」 「そうか」  市之進は、押し黙った。ややあって、うむと首を縦に振った。 「わかった。そこまで言うなら、試験を受けることを許そう」 「だ、旦那様?」  芳が驚いて上ずった声を出した。まさか、許可を出すとは思わなかったのだろう。 「人生何事も経験だ。鉄次郎。稽古の成果をいかんなく発揮してきなさい」 「はい! ありがとうございます!」
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