幕末の章

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「道場を放り出してしまうことになるのは申し訳もございません。ですが、父上のおっしゃる通り道場の将来のためにもなると思います。もし何らかの事情で私が道場を継ぐことができなくなった場合には、縫に婿養子を迎えてくださいませ」 「うむ……縫の婿養子……」  文字通り頭を抱える久蔵を見て、恭平の胸はチクリと痛んだ。このわずかな時間で、道場の行く末を決めろと父に迫っているのも同義だ。やはり行くべきではないかもしれない。けれど、すでに火のついてしまった自分の思いを、なかったことにはできなかった。きっかけこそ鉄次郎につられて、というのは間違いないが、今しかできないことに挑戦してみたいと恭平は強く思うようになっていた。これまでの稽古の成果を、京で遺憾なく発揮したい。  恭平の強い眼差しを見て、久蔵は再びうーむと唸った。 「縫も、来年には十五になる。そろそろ貰い手を探そうとは思っていたところだ。婿養子となると……真っ先に思い浮かぶのは鉄次郎だが、鉄次郎も一緒に京に行ってしまっては意味がないものなあ」 「ええっ、鉄っちゃんをですか!?」
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