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はい、と全員が歯切れのよい返事をした。土方の他に、道場の上座では二人の男が試合を見守っていた。土方に紹介され、それぞれ伊東甲子太郎、斎藤一と名乗った。土方は笑っているところが想像できないような、厳しい顔をしているが、伊東は涼やかな笑みを浮かべていた。斎藤は、伊東とはまた違う好戦的な笑みを浮かべていた。三者三様だが、共通するのは、皆おそらく女に好まれるであろう顔立ちをしていることだ。
「なんだ、新選組ってのは顔で幹部を決めてるのか」
鉄次郎はこそっと恭平に耳打ちした。
「シッ、鉄っちゃん、そんな言い方失礼だよ。それに、たまたまだろ。局長の近藤勇っていうのは結構いかつい顔をしてるらしい」
「恭ちゃん、俺のこと失礼とか言えたもんじゃないぜ」
二人はおそるおそる土方らを見て、この会話が聞かれていないかを確かめた。距離も遠く、先に試合をしている入隊希望者のおかげもあり、二人の存在は空気と化していたのが幸いした。
「次、高野鉄次郎、山浦恭平」
「はいっ」
二人は防具を身に着け、対峙した。
「始め」
二人は互いの目を見た。勝ち負けだけが判断材料ではないと言いつつ、実際はおおいに関係あるのではないか。そうすると、どちらかひとりしか受からないのではないか。鉄次郎は、不安に駆られた。恭平も同じことを考えているのか、いつもの稽古の時より出足が鈍い。
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