幕末の章

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 微動だにしない二人を見て、周囲もざわつき始めたのがわかった。  このままでは埒が開かない、しかしどうしたものか、という迷いが二人の剣には現れていた。勝負をかけられないのもそれはそれで臆病者と判断されてしまうかもしれない。焦りが生まれ、先に一歩踏み込んだのは鉄次郎だった。  恭平はいち早く鉄次郎の動きを捕らえた。上段から振り下ろされる竹刀を下から受け止めようと素早く下段に構え直すと、ぶんっと回すように竹刀を振った。  だが、鉄次郎の方が早かった。恭平の面金ががんっと音を立てた。二人はさっと身を引いて相手を見、それからちらりと審判の土方を見た。土方は、僅かに首を横に振った。一本と判ずるには浅い、ということだ。  ちっ、と誰にも聞こえない程の小さく舌打ちした鉄次郎は、竹刀を握りなおして恭平と対峙する。  もう、相手の様子を伺うなどと悠長なことをしている場合ではない。一気にカタを付けねば。そう思ったのは、恭平も同じだったようだ。二人はほぼ同時に踏み込んだ。  パアン! と思い切りのいい音が響いた。土方が、手を挙げた。それは、恭平の勝利を示していた。  
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