幕末の章

18/18
前へ
/45ページ
次へ
「もういいって、恭ちゃ……」 「わかりました。俺は、入隊を辞退します」 「おい、何言ってんだ!」  鉄次郎は恭平の肩を掴んだ。 「俺一人で京に行ったって寂しいじゃんか」 「でも、せっかく受かったのに……!」 「わかった」  土方が、二人を制するように少し声を張り上げた。 「山浦恭平の合格を取り消す」 「そんな、ちょっと待ってください!」  鉄次郎は大声で訴えた。自分のために、恭平の道を閉ざしたくはない。だが、土方は落ち着いた調子で「高野鉄次郎」と名を呼んだ。 「いい友を持ったな。二人でもっと鍛錬しろ」  土方は、わずかに笑みを浮かべ立ち去っていった。残された二人は、「あの人、笑うんだ……」とどうでもいいことを呟いた。 「土方さんの言う通りだ。鉄っちゃん。いつか一緒に、また試験受けよう。もしくは新選組じゃなくたって、この国のためにひと暴れできる場所はあるはずだ」 「うん。ごめんな……でも、ありがとう」  鉄次郎の背中を、恭平はぱんぱんと叩いた。悔しさと申し訳なさでじわりと流れてきた涙を、鉄次郎は隠れて拭った。    
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加