維新の章

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維新の章

 新選組への入隊が叶わなかったことで、鉄次郎は元の生活に戻っていた。剣術の稽古は楽しかったが、それ以外は変わり映えのない退屈な毎日。  武者修行だと息巻いて道場破りのようなこともしてみたが、自分が井の中の蛙であったことを思い知らされた。新選組の入隊試験に落ちたのも、今では少しわかる気がした。市之進が割とあっさり入隊試験を受けることを許したのは、実のところ腹の中では「どうせ落ちるだろう」と思っていたからではないのか。そんな穿った考えをもってしまうこと自体が、なおさら情けなかった。  新選組かどうかはわからないが、次こそは、何か機会がめぐってきたら必ず通用する腕前になってやる。その思いが、鉄次郎を突き動かしていた。  事実、竹刀を振り続ける日々の中でも、時代が激しく移り変わっていることを鉄次郎も恭平も感じとっていた。  数年前まで攘夷だ攘夷だと口にする大人ばかりだったが、今や闇雲に攘夷を訴えるのは、時代遅れらしい。山浦道場の門人たちがそんなことを口にしていた。
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