維新の章

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「恭ちゃん、攘夷を諦めたら、どうなるんだろうな」  鉄次郎は、櫛団子を頬張りながら言った。母や兄嫁が内職で繕った古着を届けて、代金をもらった帰りである。団子代くらいはお駄賃として抜いてもよいという暗黙の了解があったので、鉄次郎は団子食べたさに進んで届け役を買って出ていた。量が多い時は、恭平も手伝ってくれていた。「荷物を背負って歩くのは鍛錬になるし、鉄っちゃんが団子をおごってくれるから」と他所の家の仕事なのに嫌な顔ひとつしなかった。   「結局、異国を打ち払えないってことは、異人が攻めてくるってことだよね。そうなったら、うーん、江戸の町が、焼き討ち……とか?」 「そうなったらおしまいだよな。……やっぱり、今のうちに追い払った方がいいんじゃ」 「それが簡単にはいかないから、みんな『攘夷なんて無理だ』って言い始めてるんでしょ」 「うん、堂々巡りか」  二人は黙り込んでしまった。異人にこの国を踏みにじられたら。暗いことを考えていると、せっかくのおいしい団子もまずくなってくるような気がする。  ややあって、「でもさ」と恭平が明るい声で切り出した。 「俺たちがここでうだうだ考えたって仕方がないんじゃない? 異国が攻めてきたらどうするかとか、そういうことは御上が考えることだし」 「確かにな。俺たちにできることと言ったら、強くなることくらいだよな」 「うん、俺たちもっと強くなろうね」    二人はニッと笑って再び団子を口に運んだ。  剣術の稽古を重ねていればいつか道が開けると、二人は信じて疑わなかった。それが通用しなくなるような時代が来るなんて、想像だにしなかった。
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