維新の章

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「上様は恭順の意を示されている。攻める理由がないだろう」  市之進の声色からは、呆れが見え隠れしている。   「しかし、現に新政府の軍は東に向かってきているのです。理由があろうとなかろうと、事実としてまもなく江戸に来ようとしているのでございます」 「だからといって、我々のやることは変わらぬ」 「江戸の町が火の海となり、勘定所が燃えてしまったらどうなります。当家はお役御免になり、ますます困窮するやもしれませぬ。そうなる前に、陣に加わることを願い出ませぬか。抗戦派の幕閣方が、今体制を整えているという話もございます」 「そのような可能性の話をしても仕方がないだろう。よいか清太郎。刀を取ることだけが戦ではない。それこそ、戦にどのくらいの掛かりが要るのか算盤をはじくのも当家の立派な仕事である。どの道我々は上からのお達しに従うしかないのだ。何か沙汰が降りるまでは、今まで通り勤めをまっとうすればよい」  
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