維新の章

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 清太郎は、怒ってはいないようだった。鉄次郎は、おずおずとついていった。やがて、中庭が見える縁側に清太郎は腰を下ろしたので鉄次郎も隣に座った。 「どう思う」 「どうって」  すっとぼけてみたが、清太郎は再び「正直に申せ」と笑顔を見せた。鉄次郎は、この優しい兄が好きだった。父親にややとっつきにくさを感じていたこともあり、清太郎を父のように慕っていた。清太郎も、年の離れた弟をかわいがってくれていた。 「聞いていたのだろう。日本は、これからどうなると思う」  鉄次郎はうーんと唸りながら、兄の問いかけに答えを見出そうとした。だが、想像もつかない。 「なるようにしかならないと思います。だから、いつでも戦に出られるように、俺はこれからも山浦道場に通います!」 「あはは、鉄次郎はぶれないな。羨ましいよ」  羨ましい、と言った兄の目は、鉄次郎ではなく少し遠くを見つめているようだった。清太郎はもうすぐ家督を継いで市之進に代わって勘定所勤めをする予定だ。だが、この状況ではどうなるのかわからない。兄上は、どうしたいのですか。その質問を、鉄次郎は飲み込んだ。    
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