維新の章

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 ほどなくして、清太郎が話していたような話は町のそこかしこで聞かれるようになった。とある稽古の日、鉄次郎は(くだん)の父と兄の会話のことを恭平に話した。   「それは清太郎さんの言う通りだと思う。新政府軍は本気だよ。江戸に攻めてきたら、ここら辺も戦に巻き込まれるかもしれない。今のうちに、荷物をまとめておいた方がいいって皆言ってるよ」  恭平は深く頷きながらそう言った。     「荷物をまとめるって、家を置いて逃げろってことか?」 「うん。うちは、母上と縫だけでも母上の実家がある安房の方に避難させようかって話してるんだ。けど、縫が……」 「私は行きませぬよ、兄上」  どこから聞いていたのか、縫が現れた。ハタキを手に、道場の入り口に仁王立ちしている。結局この三年間縁談はまとまらず、まだ山浦家に残って花嫁修業に勤しんでいる。なんでも、久蔵の望みが高すぎるがゆえに縁談が来てもなかなか首を縦に振らないのだという。  縫はますます美しい娘に成長したが、それと同時にいささか逞しくなってしまった。 「安房まで歩くなんて遠すぎます」  と、強い口調で恭平に訴えた。  
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