維新の章

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「誰も歩けなんて言ってないだろ。船ならすぐだよ」 「船が転覆したらどうするのですか」 「そうそうあることじゃないさ、大丈夫だよ。ここにいる方が危ないんだ」 「どうせ死ぬなら冷たい海の上ではなく、生まれ育ったこの地で死にとうございます」  やれやれ、と恭平は呆れたようなため息をついた。 「ずっとこの調子なんだ。鉄っちゃんもなんか言ってやってよ」 「縫。大丈夫だ」  鉄次郎はずずいっと縫に近づいた。縫は一歩後ずさった。 「江戸の町は、俺たちが守る!」 「ちょ、鉄っちゃん何言ってんだよ」 「本当ですか?」  縫のうるんだ黒い瞳で見つめられ、鉄次郎はわずかに顔を赤らめた。 「おうよ、任せとけ。ここは俺たちの町だ。新政府軍だかなんだか知らないけど、ハイそうですかって荒らされてたまるかよ」  と、鉄次郎は自分の胸を叩いた。 「さすが鉄次郎さん! それなら安心してこの町に残れます。ね、兄上」 「はあ、鉄っちゃんってば。……でも、そうだよな。自分たちの町は、自分たちで守らないとな」  結局、縫たちは江戸に残ることになった。  鉄次郎も恭平も、新政府軍が攻めて来ようものなら絶対に蹴散らしてやる、と決意を新たにするのであった。
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