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トクは詳しい話も聞かずに芳乃を呼びに行ってしまった。面倒なことになった、と思ったが、確かに母に会わずに家を出るのも気が引けた。
それでも荷物をまとめて草鞋の紐を結んでいると、トクに連れられ慌てた様子の芳乃と清太郎がやってきた。
「鉄次郎、待ちなさい。考えは変わらぬのですか。お父上は、素直に言えないだけで、ただただ、おまえの身を案じているのですよ。それがわからないわけでもないでしょう」
「そうは見えませんでした。よしんばそうだったとしても、もう決めたのです」
「しかし」
「いいぞ鉄次郎、それでこそ武士の子だ」
「清太郎殿!」
清太郎が鉄次郎の味方をしたので、芳乃は大きな声を出した。
「母上。鉄次郎は、私と違って自由の身です。やりたいようにやらせてあげればよいではありませぬか。その代わり、鉄次郎、ひとつだけ約束してくれ。無駄死にだけは、してはならぬぞ」
清太郎は鉄次郎の手を取り、ぎゅっと握った。兄の強い眼差しに、鉄次郎は「はい」と大きく頷いた。
「兄上、母上。今日までお世話になりました。身命を賭して、戦ってまいります!」
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