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同じ頃、恭平も父親と対峙していた。
「恭平。あの頃とは違う。もう幕府の剣客隊に加わることは、死にに行くようなものだ。ここまで負け戦だし、次で勝てる保証もない。流派を繁栄させるのも大切だが、死んでしまっては元も子もないのだぞ」
「しかし、それでも私は行きとうございます。今は何者でもありませんが、私だって、侍の血を引いているのです」
久蔵はハッとしたような顔をした。明らかに狼狽している。
「知っていたのか」
「最近にございます。父上はもともと佐貫藩士の家柄だったのに、お祖父さまの不祥事で藩を追われて浪人になったと。縫の縁談がなかなかまとまらないのも、そういう事情が関係しているかもしれない、と先日の安房への避難のことで母上が叔父上に宛てた文に書いてありました」
「お前、人の文を盗み見たのか」
「たまたまです。屑屋に出す書き損じの中に下書きを見つけたのでございます。その後母上にお聞きしました」
「……縫には、言うな」
前にもこの「縫には言うな」という台詞を聞いた気がする、と思うと恭平は少しだけおかしくなって笑いそうになった。だが、今はそんな雰囲気ではない。
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