幕末の章

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   道場からの帰り道、鉄次郎は不思議な高揚感に包まれていた。京に行って、武士として剣を振るう。どうして今まで気づかなかったのだろう。御家人の次男坊が身を立てるなら、新選組入隊は選択肢として大いにアリだ。  高野家は代々勘定所勤めだ。本来は算術の能力が重視されており、剣術は嗜み程度で十分。ただ、鉄次郎は算術が苦手であったし、次男であることから極める必要もなかった。久蔵がお情けで稽古料を格安にしてくれていることもあって、鉄次郎の道場通いは家族の間では「次男坊の道楽」扱いであった。  だが、鉄次郎にとって剣術は道楽などではなかった。算盤をはじくのも大事なお役目なのはわかっていたが、久蔵の言う通り、武士とは戦ってなんぼのもの、剣術こそ何よりも大切なのだと考えていた。  ひとまず、入隊が決まればすぐに出発になるため、父に報告しなければと鉄次郎は歩を速めた。
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