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目覚めたサマンサが、ここがどこかを思い出そうとしていた時、部屋の隅に控えていたメイドが声を掛けてきた。
「カレン様、私がご滞在中のお用を承りますメイドのアンでございます。どうぞよろしくお願いいたします」
(カレン……ああ、カレンね。カレンよ、カレン)
「こちらこそよろしくお願いします」
「お夕食はお部屋でと聞いておりますが、お湯あみを先になさいますか?」
「ええ、先にお湯を使いたいです。食事はその後で結構です」
「畏まりました」
メイドが部屋を出るのを確認したサマンサは、クローゼットやサイドボードの中を確認して回った。
クローゼットにはドレスは無いが、色とりどりのワンピースと靴が揃っている。
サイドボードの中には持ってきた資料が詰まっており、ライティングデスクには筆記用具が揃っていた。
「至れり尽くせりってこのことだわ」
ふと見ると、窓の外に王都の街灯りが煌めいている。
「メントールで見た星空みたいにきれいね」
あの日、窓から身を乗り出して夜空を眺めているアマデウスがサマンサの部屋から見えた。
月明かりに照らされた金色の髪が風になびき、サマンサは初めてアマデウスを美しいと感じると同時に、手放すのが惜しいと思っている自分に気付いた。
「今更よね……でも学園の頃のような行動にでるならチャンスはあるわ。まあアマデウス様は政略結婚の相手を愛そうと努力してるって感じだったけれど、あの方のいう通りルルーシア様のお心は離れつつあるもの」
ふたりは政略結婚で愛は無いのだと聞かされているサマンサにとって、アマデウスとルルーシアは互いに無理をしているようにしか見えないのだ。
そんなことを考えていると、胸の奥についたシミがじわじわと広がっていく。
「サマンサだろうとカレンだろうと私は私よ。まずはお金を稼いで……あっ、でももし本当に側妃になったらもう返さなくても良いんじゃない?」
今まで心の隅に芽生えたまま気付かぬふりをしていたズルい考えが、カレンという名と共に体の中に広がっていく。
その頃、談話室では三大侯爵が酒を飲みながら話していた。
「どう思った?」
メリディアン侯爵の言葉に、フェリシア侯爵が答えた。
「ああ、あれはやらかしそうな感じだな」
ロックス侯爵も続く。
「俺もそう思ったよ。一見完璧な逃げ道を作ってもらったことで欲がでるんじゃないか? アリアもまだまだだな。詰めが甘いよ。まあ早めに相談してきたのは合格だが」
「まあそう言うな。卒業したての令嬢としてはなかなか腹黒い作戦だと思うぞ? 彼女はお前に似たんだな」
「いや、あの腹黒さは間違いなく妻だ」
フェリシアとロックスの会話にメリディアンが割り込む。
「どっちに似ても同じような感じだと思うぞ? で、どうする? 俺たちの先入観だけなら良いが、本当に動くなら消すか?」
「そうだなぁ、消すか飛ばすか追い出すか。ああ、金のことがあるから売るか?」
「あの娘に5億だすなんて変態ワートルかアホ殿下くらいだろ。金はまあいいさ。どうせ回収するんだ」
メリディアンの迫力にロックスが咽た。
「手は打ったのか?」
「ああ、ルルのところにはキャロラインというメイドを入れた。殿下の方はどうするかな」
フェリシアが頷く。
「それならうちから入れているよ。メイドだが使えるのがいるんだ。あっちの方は今まで通りロックスがやってくれるんだろう?」
「ああ、引き続き引き受けよう。で? いつまでにする?」
「最低半年は必要だろう。変態と鬼畜と腹黒が繋がっていれば芋蔓式に一気だが、別々ならゴミとカスとクズを別々に片づけねばならん。ああ、そう言えば先日お会いした王弟殿下から釘を刺されたよ」
「なんて?」
「次期王はアマデウス一択だそうだ。自分は絶対にならないと強く仰った」
「相変わらず我儘だな、あの方も」
「何をそんなに嫌がるんだか」
三人は揃って溜息を吐いた。
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