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「どれだけ食べてくれても構わないけれど、無理はしないでね? 健康第一よ?」  二口でプリンを胃に流し込みながら、アリアがコクコクと頷いて見せる。  ゴクッと喉を動かして、満足そうな顔をしながら言う。 「任せておいて。私の根性を見せてあげようじゃないの」  家庭教師まで雇ったということはロックス侯爵も応援してくれているということだろう。  一人娘なのに王宮に働きに出すなど、外聞が悪いだろうに申し訳ないことだとルルーシアは思った。  さんざん喋って、これでもかというほどお菓子を食べたアリアが帰った後、ルルーシアは邸にある図書室に向かった。  長い歴史を感じさせる膨大な蔵書の中から、数日かけて探し出した一冊が窓際の机におかれている。 「星ってこんなにあるのね……何も考えずに眺めただけで、見えない線を見出すなんて考えもつかないわ」  星を繋ぎ、様々なものに見立てていた太古の人々は、どんな思いで星を見ていたのだろう。  そんなことを考えながらページをめくったルルーシアが小さな声をあげた。 「まあ! お誕生月によって守り星座というものがあるのね。殿下は4月22日だから……おうし座? オスの牛なのね。この日に生まれた女性は牝牛なのかしら? あらあら、女性でも牡牛なのね。ふふふ、なんだか不思議」  美しい微笑みを浮かべながらルルーシアが次のページに視線を移した。 「あら、おうし座が見られるのは冬なのね……自分の守り星座がお誕生日には見えないなんてなんだか理不尽な気がするわ。なぜそんな決め方なのかしら? まあ! 牡牛座の牛はゼウス様なの? それに恋をなさって王女を攫うなんて……しかも正妻がありながら! 恋をしたら盲目になってしまうのが牡牛座の人の特徴?」  ルルーシアはサマンサと寄り添うアマデウスの姿を思い出してしまった。 「ダメよ! 信じると決めたのでしょう? そうだわ! 私の守り星座は何かしら」  ルルーシアがまたページをめくる。   「私の誕生日の9月1日は乙女座かぁ。乙女ってなんだか……もっと強そうなのが良かったのになぁ。でもこのフォルトゥーナという女性って強そうよね。ん? なになに? 運命を操る舵を持ち、不安定さを象徴する球体に乗っているですって? しかも幸運は逃げることを教えるために羽根がある靴を履き、幸福は満ちることがないことを示すために、底の抜けた壺を持っている? どれほど過酷な象徴なのかしら。しかもチャンスは後からでは掴めないから前髪しかないなんて……この方は強くなるしかなかったのね、きっと」  その後も父親やアリアの星座を調べたりしている間に、夕食の時間になった。 「お嬢様、そろそろ食事のお時間でございます」 「まあ! もうそんな時間なの? 夢中になってしまったわ」 「何をご覧に……星座ですか。お嬢様はそれほどまでに……」  ルルーシアが慌てて声を出す。 「そんなんじゃない……ことも無いわね。殿下の御心が私に向いていなかったとしても、私はまだ殿下のことが好きみたい。バカよね……」  キャロラインが何も言えず俯いた時、ドアの方からエディが声を掛けた。 「ご主人様が食堂でお待ちです」 「すぐに行くわ」  ルルーシアが慌てて図書室を出た後で、キャロラインは大きな音を立てて星座の本を閉じた。 「アホ王子が死ぬまで、星なんて全て消えればいいのに!」  その頃王宮ではアマデウスと王弟であるキリウスが、テーブルを挟んで睨み合っていた。 「今日も呼ぶとはどういう頭をしているんだ!」 「だって叔父上、今日はおとめ座が南の正面で観測できる絶好の日なのです。おとめ座のスピカは青白く光ると聞いていますが、僕はまだ見たことが無く……」 「1人で見ればいいだろう?」 「しかしまだ僕にはスピカを見つけるだけの知識が無いのです」 「そうか、では私が王立天体測量所の所長を呼んでやろう。所長の解説なら誰よりも詳しいはずだ」 「えっ! 本当ですか。それは嬉しいです。さっそくサマンサにも知らせてやりましょう」 「やはり呼ぶのか……どうあってもそのサマンサという女と一緒に見たいというのだな?」 「あ……いえ……彼女は仲間ですので、そんな絶好の機会を得られるのなら呼んでやろうと思っただけで……」 「それほどまでに彼女と一緒にいたいということだな?」 「いえ! それは違います。僕が一緒にいたいのはルルだけです!」 「だったらルルちゃんを呼んでやれよ。一緒に所長の解説を聞けばいいじゃないか。あの健気なルルちゃんをこれ以上傷つけるなら、俺にも考えがあるぞ」 「叔父上……しかしルルが星座に興味を持つとは……」 「なぜ決めつける?」  アマデウスは返事ができなかった。
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