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 結局ルルーシアは卒業まで学園に通っていない。  アリアが、自分が来るから無理して通学する必要はないと言ってくれたからだ。  相変わらずアマデウスは日参したが、会えるのは3回に1度程度の割合で、花だけを渡して帰っていく。  アリアは卒業試験の早期合格を果たし、自宅学習に切り替えたが、アマデウスと会うという日はルルーシアに付き添っていた。 「いよいよ卒業式ね。ルルも式には出るのでしょう?」 「私は行かないつもりよ。だって2日しか通っていないのに式だけ出るって厚かましいわ」 「私ね、優秀学生に選ばれたの。卒業式でその表彰があるからあなたには是非見てほしいわ」 「まあ! 素晴らしいわアリア! 頑張ったのね」 「うん、私らしくないほど頑張ったよ。だから私の晴れ姿を見に来てほしいな」 「それは行かなくちゃ! うん、私も卒業式に出るわ」 「お祝いはメリディアン家の特製スイーツで良いわよ?」 「ふふふ! はい、畏まりましたわ」  笑い合いながらお茶を飲むルルーシアを見ながら、アリアは半年前のアランの言葉を思い出していた。  突然アリアの家を訪れたアランが、真剣な顔でアリアの顔を覗きこんだのだ。 「なあアリア、側近試験を受けると聞いた。本当に頑張ってほしいと思っている」 「なんなの? 急に」 「うん、あれから俺は本当に反省したんだ。ずっと王太子という重責に耐えてこられたアマデウス様が、息を吐ける場所を見つけた事を、頑なに守ろうとしていたんだと思う」 「婚約者の側で息を吐けって話よ。バカバカしい」 「そうは言うが、お二人は国政を担う両翼となられるのだ。殿下に気を抜く時間など無かったんだよ。それはルルーシア嬢も同じさ。もしそれができるとしたら結婚してからだろう?」 「まあ、そうかもしれないけどさ。やり方がねぇ……」 「先日、フロレンシア伯爵から側妃として召し上げる約束を反故にするなら、支払った結納金は慰謝料として受け取る。そしてサマンサ嬢には改めて嫁ぎ先を探すと言われてしまった。だから側妃の件はもうどうしようもない」 「そんなの判りきっていたことでしょうが。娘を変態に売り飛ばすようなゲス男よ?」 「ああ……本当に俺も殿下も世間に疎過ぎたよ……そこでだ、アリア」 「な、なによ」 「絶対に側近試験に受かってくれ。俺はバカで間抜けで迂闊で考えなしの脳筋男だから、咄嗟の対処が苦手だ。じっくりと考えなくては体が動かない。お前は子供の頃から目端が利いて、何でもすぐに順応できる賢さを持っている。今の俺にできることは体を張って殿下をお止めすることだけだ。もちろん努力はする。しかしお二人の結婚は目前に迫っているから……」  アリアはポカンと口を開けたままアランの顔を見ていた。 「あんた、意外と自分のことわかってんじゃん。それにあんたは王太子というよりアマデウスという単純ノウタリン男の事が好きなんでしょ? まあ素直といえば素直な人だものね。あんたにも私にない純粋な心? そういうの持ってるもんね」 「好き……いや、俺の恋愛対象は女性だが」 「そういう意味じゃなくて! まああんたが殿下を愛してるっていっても納得するかもだけど」 「やめてくれ! 俺が好きなのはお前だけだ。ずっと子供の頃からお前しか見てない! あ……」  アランが真っ赤な顔で横を向いた。  アリアの目が顔の半分を占めるほどに大きくなっている。 「アラン……コクるなら雰囲気ってもんがあるでしょうが! このバカちんが!」 「す……すまん。今のは忘れてくれ。いや、忘れてもらっても困るのだが……とにかくお前しか頼れる人間がいないんだ。幼馴染のよしみだと思って助けてくれ」 「もっと早くにヘルプ出せよ! よし! 任せとけ! 私は石にかじりついてでもルルーシアの側にへばりつける立場になるから! その代わりあんたも協力してよ?」 「ありがたい……俺にできる事なら何でも言ってくれ」 「そうと決まればふたつある。まずは数学教えて」 「え? 数学? おまえ数学苦手なの? あんなに成績良いのに?」 「私は数学が好きだけど、数学が私を嫌うのよ」 「そ……そうか。分かった、毎日お前の家に行って教えてやる。学園では殿下の側を離れるわけにはいかないんだ。遅くなるが良いか? ロックス侯爵にはちゃんと話しておいてくれ。俺も親父には伝えておくから」 「了解! それとあんた、サマンサと殿下を2人で会わせちゃだめよ。もしどうしても会う用事があるなら私を呼んで。同席して嫌味をぶちかましてあげるから」 「分かった。極力会わせないようにはするつもりだが、なんせ殿下の行動力が凄まじい」 「ああ……あのアホは考えなしで体が動くタイプだよね。たぶんあいつの前世は猪だわ」 「おまえ! それは不敬だろ!」 「それ無し! 今のあいつに敬うところはゴマ粒ほどもない! よって不敬は成立しない! わかった? それを認めないなら今回の話は無し!」 「う、わかった……」 「それと、もう一つ」 「なんだ?」 「一発殴らせろ」  目の前でルルーシアが次のケーキに手を伸ばしたのを見て、現実に戻るアリア。 「あ! それ私が狙ってたやつ!」  ルルーシアは天女のような微笑みを湛えながら、そのケーキに容赦なくフォークを突き刺した。
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