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 サマンサが申し訳なさそうな顔で続ける。 「あなたがいつだったか、ちょっとだけ殿下から離れたことがあったの。そう、学園でよ。その時に私は殿下に駆け寄った。そして父に言われたことを伝えたのよ……はっきり言うわね。私は汚い考えで殿下に「助けて下さい」って言ったわ。殿下が動いて下されば、どこかの貴族家が養子に貰ってくれるかもしれないし、それが無理でも国外へ逃がしてくれるかもしれないって。でも殿下が出した答えは「だったら僕の側妃という立場を与えよう」というものだった」  アリアが盛大な溜息を吐きながらアランを睨んだ。 「あんたの怠慢ね」 「いや、しかし……うん、そうだな。俺が目を話したのが間違いだった」  サマンサが慌てて言う。 「違うよ、アリア。アランは本当に殿下にへばりついてたの。あれ以来ずっと会うことさえ阻止されていたもの。だから私は側妃じゃなく他の方法をって相談することもできなかったんだけど。正直に言うと、側妃でも何でもこれで助かったと思ったのは事実よ。私は本当に……自分が生きる事しか考えていない汚い人間なんです」  マリオがサマンサを庇うように口を挟んだ。 「いや、君のやったことはズルいことだが、仕方がなかったとも思えるよ。そんなに泣くなよ……頼むから」  マリオが差し出したハンカチで、遠慮なく鼻をかんだサマンサが続ける。 「私、どんなに悪く言われても生きていたかったの。平民ならって何度も思ったけれど、逃げることができなかった」  アランが口を開いた。 「しかしそんな状況でよく家敷を抜け出せていたものだ。しかも夜に」 「あれは乳母が協力してくれたのよ。あまりにも私が可哀そうだって言って。乳母の娘さんが私の代わりに部屋にいてくれたからできたの。いるかどうかを確認に来る騎士は、部屋の外から声を掛けるだけだから、返事さえすれば問題なかったわ」  マリオが返されようとしたハンカチを断りながら言う。 「なぜ逃げることができなかった?」  サマンサが首を振った。 「お金はもちろん、ドレスも宝石も何も持っていない私がどこへ逃げるの? その頃の私が持っているものといえば、乳母が縫ってくれたワンピースが2枚と、寝間着と制服だけよ。それに私が逃げたら、唯一の味方だった乳母親子が殺されてしまうかもしれない……無理よ」  アランとマリオが黙り込んだ。  アリアがあっけらかんとした声で言う。 「じゃああんた、いっそ死になさいな」 「おい! アリア。それはあんまりだろ」 「そうだよ、アリア。それはさすがに言い過ぎだ」  アリアが呆れた顔をする。 「いい? ポイントは4つよ。ひとつ目はサマンサを伯爵家の籍から抜く。ふたつ目は借金の返済問題。みっつ目は側妃が側近になるというスキャンダルの回避。ここまでは良い? そしてよっつ目、サマンサを側妃から降ろす。そうでしょ? あんたが死ねば全部解決するのよ」  アランがサマンサの顔を見た。  サマンサは数秒だけ啞然とした顔をしていたが、ポンと胸の前で手を打った。 「ああ、そういうことね。なるほど、では私は誰になるの?」 「そうねぇ。そこはお父様に頼んで適当な貴族を探すわよ」  アランとマリオがほぼ同時に立ち上がった。 「ちょっと待ってくれ! 話について行けない!」 「死ねってどういうこと? しかもサマンサは納得してる?」  アリアとサマンサが顔を見合わせて肩を竦めた。 「サマンサ・フロレンシア伯爵令嬢は、側近として同行した墓参から帰ってすぐに、熱病に侵されて殿下から賜った自室で寝付いてしまうの。可哀そうよねぇ……その熱病はうつるかもしれないでしょ? だから王太子は見舞いにもいけないし、側妃に召し上げるための婚姻式も延期。そして儚くも短い人生を終えるのよ。本当に可哀想よねぇ……その間の王太子の側近は空席になるから、早急に人員を確保しないといけないでしょう? そしてなんと! 丁度良い人がみつかるの。隣国に留学していた超優秀な子女ってことで、名前は仮にA嬢としましょう」  アランが慌てて口を挟む。 「すまん、アリア。もう少しゆっくり頼む」 「相変わらずね、あんた。まあいいわ。マリオはついてきてる?」 「あ……いや……すみません」
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