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「でもみんなと同じ馬車だと拙くないか?」  アマデウスの言葉に、マリオがすぐに返事をした。 「我が家から馬車を出しましょう。具合が悪そうだったので横になれるように手配したと言えば疑われることも無いでしょうから」 「ああ! 分かった」  ルルーシアの声に全員が顔を向けた。 「引っ掛かってたことよ。ねえ、サマンサ嬢。この作戦が終わって側近として別人になっても、殿下の天体観測には付き合うでしょう? だってあなたの趣味も星なんだもの」 「え……それは……」  サマンサがサッと顔色を悪くした。  彼女の話を聞いている三人は、戸惑いながらアマデウスを見る。 「僕は……天文観測所の所長に教えを乞うことにしたんだ。だから彼女と一緒には……」 「まあ! それは素晴らしいプランですわ。でもお二人の間には友情しかないのでしょう? だったら尚更よ。趣味を諦める必要は無いわ」 「いや、でも……」  アリアが口を挟んだ。 「ルル、その件は全て片付いてからよ。今は考えるのを止めましょう。それにサマンサは呼び捨てでいいわ。私たち全員がそうすることにしたから」 「そう? わかったわ。まあ、星は逃げないものね。ゆっくり考えましょうか」  アマデウスが絶望的な顔をした。  それぞれの部屋に戻った後、アリアがアランに目配せをする。 「王太子のこと頼むわよ」 「ああ、俺の部屋の前を通らないと行けない場所だ。安心して任せてくれ」    そして翌朝、まだ全員が朝食のテーブルについていた時、メントール家の家令が慌てて駆け込んで来る。  その後ろから顔を出したのは、砂ぼこりに塗れた騎士服を纏ったエディ・オースだった。 「まあ! エディ! どうしたの? お父様に何かあって?」 「三日ぶりです、お嬢様。いえ、妃殿下。ロックス侯爵より書状をお届けに参りました」  アリアが立ち上がる。 「ありがとう。あなたが来てくれたということは、御三家承知という事ね」 「左様でございます。昨夜遅くにお集まりでした」  マリオが使用人に声を出す。 「すぐに湯あみの準備をしてくれ。それと客間を用意するんだ」  エディが慌てて言う。 「湯あみは大変嬉しいのですが、私はただの護衛ですので、空いている使用人部屋をお貸しいただければ十分です」 「いや、馬車で1日かかるところを、夜通し駆けて来てくれたんだ。今日だけでもゆっくりと休んだ方がいい」  使用人たちが数名パタパタと部屋を出た。  あっけにとられたような顔をしているメントール家の人たちに、アリアが微笑みかけた。 「昨夜の会議で、どうしても大至急確認しなくてはいけない事があったのです。こちらに到着してすぐにマリオ君に頼んで使いを出したのですが、本当に早く解決できましたわ。彼は王太子妃のご実家の護衛騎士で、エディ・オース卿です」  ルルーシアも続く。 「私が幼いころからずっと信頼してきた騎士ですの。いきなりのことでご迷惑をおかけしますが、緊急案件だとご理解いただき、ご容赦願えませんか?」  ポカンとする父親に代わって長兄が返事をした。 「もちろんでございます。すぐに準備を整えますので、今しばらくお待ちください。お湯あみが済まれましたら、お食事も運びましょう」 「恐れ入ります」  エディが美しい騎士の礼をした。  それを見た末娘が頬を真っ赤に染めている。 「出発までまだ時間はあるわ。一気に片づけてしまいましょう」  書状を受け取ったアリアがそう声を出し、食事が再開された。  エディは使用人に案内され、食堂を出て行く。 「素敵な方……」  今年で16歳になる末娘の声に、マリオが反応した。 「おいおい、彼はああ見えてお前の倍の年齢だ。それに妃殿下の護衛騎士として王宮に出仕することも決まっているんだから、お前の出る幕は無いよ」  ルルーシアがおかしそうに言う。 「あら、マリオ。彼は意外と若いのよ? 今年で確か25じゃなかったかしら。ご実家は伯爵家で、三人兄弟の三番目。すぐ上のお兄さまは王宮の近衛騎士をしておられるわ」  母親まで頬を染めながら口を開いた。 「近衛騎士のご兄弟が……どうりで素晴らしい容姿をしておられると思いましたわ」 「母さんまで……」  マリオが呆れた顔をする。  話が変な方向に行きそうだと思ったアランが声を出した。 「さあ、急ごう」  アマデウスとルルーシア、そしてアリアとアランとマリオが立ち上がる。  墓参のための準正装をした王太子夫妻と、側近の制服をビシッと着こなした三人の姿は圧巻で、メントール家の人々はもちろん、残っていた使用人たちも感動の眼差しを向けていた。  そして昇り始めた朝日に向かって二台の馬車は丘を越えていく。
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