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 すぐにやってきたのはアリアだ。  肩で息をしているところをみると、走ってきたのだろう。  ルルーシアがアマデウスとマリオの所在を聞くと、途中でキリアンに捕まってしまったらしい。 「まあ! それなら王弟殿下もお誘いしましょう。アラン、頼める?」 「はい、すぐに」  アランが部屋を出ると、顔なじみの三人だけになった。  アリアがキャロラインに声を掛ける。 「キャロ、良かったわ。私は殿下付きになったから、気の利く侍女かメイドが欲しかったのよ。でもなぜメイドにしたの? あなたなら十分侍女としてやっていけるでしょうに」  キャロラインが微笑みながら答える。 「だって侍女だとお嬢様のお風呂のことやお着替えのことができないですから。それに王宮でどこにでも行けて怪しまれないのはメイドでしょう?」 「それもそうね。さすがメリディアン侯爵だわ」  キャロラインが首を横に振りながらアリアを見た。 「いえいえ、ご主人様はアリア様の聡明さに感服しておられましたわ。さすがでございます」  廊下でパタパタと足音がした。  ルルーシアが小さな声でキャロラインに言う。 「お嬢様じゃなくて妃殿下って呼ばなくちゃダメよ? それにご主人様はアマデウス殿下でしょう? 気をつけないとつまらないことで不興を買ってしまうかもしれないわ」  キャロラインがペロッと舌を出した。 「はい、妃殿下。でも私のご主人様は今でもメリディアン侯爵様です。あのアホボンに仕えるは嫌だと申しましたら、実家から差し向けたメイドという立場を下さいました」  ルルーシアが呆れた顔をした。 「アホボン……」  ノックの音がしてアマデウスが満面の笑みで入って来る。 「ルル! お誘いいただき嬉しいよ。ああ、素敵な執務室だね」  その後から入ってきた王弟がにっこりと微笑んだ。 「私までご相伴にあずかれるとは、ありがたいことだ。ルルちゃん、感謝するよ」  その場にいる全員が一斉に頭を下げると、キリウスが苦笑いを浮かべた。 「まずはメリディアン家自慢のスイーツをいただこうか。話はそれからだ」  キャロラインが全員に紅茶を配り終え、アリアが一番に手を伸ばした。   「噂には聞いていたが、王宮のパティシエよりぜんぜん上だな」  キリアンの声に全員が頷く。 「これを食べたら、王都中の店を回っても満足なんてできないですわ」  アランが目を丸くしてアリアに言った。 「お前……何個目だ? まだランチ前だぞ?」 「良いのよ、これが食べられるならランチは抜いても後悔は無いわ」  山ほどもあったスイーツがきれいに無くなると、気を利かせたキャロラインがお湯を貰ってくると言って部屋を出た。 「さあ、始めよう。詳しく教えてくれ」  キリアンの声掛けで、サマンサ病死作戦の会議が始まった。 「なるほどな。それはここにいる全員は納得なんだな?」  頷かなかったのはルルーシアだけだった。 「ここにサマンサはいないけれど、彼女は本当に納得なのかしら。だって殿下は……」 「ルル! 本当に違うから!」  キリアンが静かな声で言った。 「アマディ、前途多難だな。ルルちゃんはどうしてそう思うのかな?」 「はい、今ここで側妃となるサマンサを消したとしても、彼女は名を変えて側近として戻ってきます。そして殿下は趣味の天体観測を『新しい側近』と一緒になさることになるでしょう。そうなると、側妃を亡くしてすぐに他の女性となんて噂になりますでしょう?」 「ああ、そういうことか。さすがに次期国王が空前絶後の女好きというのはいただけんな。アマディは彼女との天体観測を続けるつもりなの?」 「天体観測はもうしません」 「それはダメです。趣味は大事ですわ」  言い返そうとするアマデウスを制してキリウスが言った。 「なるほどね。確かに趣味は大事だ。でも人目も大事だよ、ルルちゃん。なあ、アマディ、ここまでルルちゃんを追い込んだのはお前の心無い行動なんだ。ルルちゃんがどれほど傷ついたかお前はまだ理解していないみたいだがね」 「しかし叔父上!」 「まあ待ちなさい。ねえ、ルルちゃん。ひとつずつ片づけていこうよ。まずはこいつの偽側妃を消す。噂雀は飽きやすいからね、どうにでもなるさ。それが終わったら側近問題だね。彼女が常にアマディの側にいることが嫌なら、左遷という手もあるよ。これもどうにでもなる話なんだ。変な言い方で申し訳ないが、君がアマディを見捨てず婚姻を結んでくれたからこそ、打てる手が増えた。後は君の気持ち次第だよ。もしかしたら大きなゴミも片付くかもしれない」  ルルーシアがキリウスの顔を見た。 「大きなゴミ?」  そう言ってたルルーシアと目が合ったアマデウスは、自分の顔を指さした。
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