届けたいもの

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「ラーメン以外の他のものも瞬間移動って出来ないのかな?」 僕はそうだとしたらどこでもドア並の大発見ではないかと思ったけど 「それはちょっと無理ですね」 と苦笑された。 「じゃあ何故ラーメンならいいんだろう?」 「周波数とかそういった問題でね…」 目に見えないものと言うのは理屈はなんとなく分かったとしても、うさんくさが残るものだ。 文明が発達していない国からきた人が受話器を手にして「呪われている」とつぶやき恐ろしそうに電話を眺めているのをみて笑えた。 でも考えてみれば僕らとて1から電話を作り、電波を通す過程の何一つ再現することすらできないのだ。 売上が上がるならということで店の夫婦はラーメンの通信化を決めた次の日、さっそく工事の人がアーム式のバケット車両に乗ってきた。 1時間程で済みますから と言って以前携帯電話の基地局を取り付けたところに便乗して新たなラーメン基地局を作るらしい。 僕達は専用のどんぶりと脇にスマホをおいて工事完了を待った。 「も、申し上げます、申し上げます。味噌そば一つお願いします」 店主は緊張してむかしの電話交換手みたいになったがそんなことはお構いなく震える手でスマホの注文完了のマークを押すと ブーーーン と電波が走る音がして通信専用どんぶりに味噌そばが瞬間移動していた。 さっそく僕らを代表して店主がその味噌そばを食べてみた。 「これは、間違いなくうちの味だ」 誰もがこれからのラーメンのあり方、未来について発展していくさまを想像して目を輝かせたように思えた。
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