届けたいもの

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先ず、出前をとってくれている常連さんに 専用どんぶりを配った。 常連さんは 「それは便利だね!」「とうとう三京さんも近代化したって訳だ」 色々言われたけど全般的に楽しみにしてくれるお客さんが多くて人気は上々だった。 僕は出前がなくなった分皿洗いや接客に集中でき、からだ的に楽になって万々歳だった。 そんな日々が当たり前になり通常になりつつあるように思えたが、一ヶ月程するとラーメンの通信出前が少しずつ注文が減ってきて 「バイトの兄ちゃんに来てもらいたい」と言う声が増えた。 そして店に来て食べる人も増えた。 店主も奥さんも 「どうしてわざわざ店に来てくれるのかね?」 「出前にバイトを使わなくてもよかったのに、お客さんがそう言うなら出前行ってね」と申し訳なさそうに僕に言った。 僕も不思議に思って出前に行く先々でさりげなくお客さんからその調査をしてみた。 「うーん、何ていうのか、電波で来るラーメンっていうのはなんだか味気なくてね」 「味に変わりわないんだけど、何か違うような気がしてさ」 とか「同じ料金払うなら届けてもらったほうが美味しく感じるんだよな」 とか意外にもそんな意見が多かった。 店に戻るとまた店主と奥さんが 「また鼻の下伸ばして!」 「伸ばしてないわ。いい加減にしろよ!」 中華鍋にオタマをカンカンと鳴らし素早くチャーハンをカウンターに出した。 「これ、Bテーブルに出して!」 「はい!」 出前から帰ってきてちょうどのタイミングで注文されたものができた。 「そんな愚痴ばっかり言ってないで餃子焼け、餃子!前みたいに焼き過ぎるなよ」 「いつ私が焼き過ぎたって言うの!」 「そうだろが、やきもち焼きが!」 ジュー、ジューと餃子の美味しそうな匂いがしてきた。 「はい、お待ちどう様」「お待たせしました」 さっきまでしかめっ面で作ってたのにお客さんにみせる笑顔と餃子の旨さはまったく別ものなのだ。 完
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