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 身体を起こしたヒトガタの頭は監視台の屋根よりも高い所にあり、全身が見えなくなった。松下が「小さい方だがメスだ。第四種確定」と俺に説明をした。瞬間、監視台の屋根に何かが落ちるような音がした。ヒトガタが監視台を襲ったのかと思い身を竦めたが、違った。「マサムネとナライが来た」と言ったのは石森さんだ。監視台から身を乗り出す彼の横に立つと、体操選手のように身体を捻りながら放物線を描いて宙を舞う人影が見えた。マサムネさんだ。  呆けたようにそれを目で追う俺とヒトガタ。それからヒトガタが吠えた。管楽器をめちゃくちゃに吹いたような音に耳を塞ぐ。見れば足元にはナライ君がいて、まるで太い木を伐採するかのように斧をヒトガタの脚に向かって振っていた。マサムネさんはわざとヒトガタの目の前を跳んだのだ。 「マサムネさん、こんなにうるさいのに」俺が耳から手を離しながら言うと、それに答えるように「マサムネは変身すると耳が退化する」と松下が言った。マサムネさんが大きな音にパニックを起こして変身してしまうのは、耳を退化させて聞こえにくくするためなのかもしれない。  ナライ君の斧から逃れるようにヒトガタが砂浜を這った。完全に陸に上がった。俺が「来た」と声を上げるのと同時に、ツルハシを握った松下が監視台の屋根によじ登り、そこから跳んだ。  マサムネさんの跳躍には到底叶わない。が、松下はツルハシをヒトガタの左目に突き刺した。悲鳴を上げるヒトガタ。松下はツルハシにぶら下がるように体重をかけた。ズルリと眼球を割いたツルハシは目の下の頭蓋骨の辺りで止まった。
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