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 スープを飲み終えた頃になってようやく太陽が海岸線から切り離された。俺は再び海の向こうに目を遣った。ナライ君とぽつぽつ取り留めのないことを話しながらサンドイッチを噛った。サバとクリームチーズのサンドイッチだった。それを半分ほど食べた辺りでふと監視台の足元を見遣ると何やら丸くて硬そうなものが転がっていた。ビーチボール大のそれに俺が「うわ」と声を上げるとナライ君も下を見た。 「マルカメムシだ」 「あれカメムシなんですか」 「国内では割とポピュラーだよ、マルカメムシ」 「へー」 「噛みつかないけど刺されることもあるから。僕が処理するから待ってて」と言うとナライ君は背中の斧を掴んで軽やかに監視台を下りた。カメムシを足で転がし腹面に向かって斧を振り下ろした。青臭いような何とも言えないにおいが漂う。ナライ君も「くせー」と声を上げた。  俺はハッとして顔を上げた首にぶら下げた双眼鏡で海を見る。海面から見えた白っぽい塊に思わず「やべ」と漏らした。 「ヒトガタ?」監視台の下から声をかけるナライ君に俺は「恐らく」と答えて階段を下りた。 「カメムシは僕がやるから、大泉さんはみんなを呼んできて。端末で呼ぶより行った方が早いでしょ」 「はい」 「サンドイッチ持って行きな。食べてからおいで」  緊張感のないナライ君の発言が、今の俺には有り難かった。
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