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 海水浴場は青臭いような、独特なにおいが充満していた。見れば十数体のマルカメムシが転がっている。俺は監視台に上って海を確認した。白い姿は確認できないが、海面に黒い影が見えた。着実にこちらに近付いている。 「完全に陸に上げよう。途中で海に逃げられたら追えない」と下で声がしたので監視台から身を乗り出すと、ミナトさんがいた。この寒い中服を脱いでいる。 「え、何やってんですか」 「闘う準備だよ。これ持ってて」とミナトさんは背伸びをして脱ぎたてホカホカの服を俺に押し付けた。それから全裸の状態で拳にぐっと力を入れると、クビキリギスを処理した時のマサムネさんのように皮膚が黒ずんで硬化し始めた。マサムネさんはやや黄みがかった浅黒い肌で、所々に痣のようなものがあるまだら模様だったが、ミナトさんは真っ黒。そして、襟足から腰の辺りにかけて、白っぽい綿のようなものが密集して生えていた。眉間の触角はマサムネさんほど長くない。  するりと俺の手からミナトさんの服が抜ける感覚を覚えて振り向くと、石森さんがいた。彼は「ミナトの背中にある蝋物質は1200℃になる。あれを飛ばして怪奇種を処理する」と言いながら服を畳んだ。さらにその隣には松下がいて、海を眺めながら「でかい魚影だな。びっくりした。ぎょえー」と棒読みでつまらない駄洒落をかましている。 「ナライ君とマサムネさんは」
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