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「ふたりは向こうでマルカメムシを処理している。ふたりとも無傷だ」石森さんが答えた。
「ヒトガタが上陸したらナライとマサムネには足止めをしてもらう」と松下が言う。「俺と石森君とミナトは目潰し」
「目潰しですか」
「ヒトと同じで、ヒトガタも情報の大半を目から得ている。両目が見えなくなれば処理の難易度が下がる」
「なるほど」
「大泉君はヒトガタが上陸したら怪奇種対策庁と航空自衛隊松島基地に連絡を取って欲しい。各所との連携は君に任せる」
「わかりました」
「ヒトガタはもちろんマルカメムシにも気を付けるように。口吻でヒトを刺すこともあるしあのにおいのする体液は皮膚炎を起こす」
「はい」と俺は頷きながら答えた。
ヒトガタが頭を出した。浅瀬まで泳ぎ着いたのか腕を使って身体を起こした。記録で体長もよく知っているつもりだったが、実際に目の前に現れると、より大きく感じる。
俺は今すぐにでも逃げ出したいほどビビっていた。なのに石森さんと松下は監視台から微動だにせず、近付くヒトガタを眺めていた。俺、先に監視台下りていいかな、なんて思っているとヒトガタの動きが速くなった。海水の浮力を完全に失って這うように仕掛けた肉に近付く。砂浜を押し付けた前脚はヒトのそれによく似ている。爪までしっかりついていた。やけにヒトの手っぽいそれが、不気味さに拍車をかけている。
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