3

4/14
前へ
/151ページ
次へ
「うわ」と俺は声を上げた。吹き出したヒトガタの血液に対する感想と、怪奇種へ躊躇いなく食らいついた松下への驚きと、確実に目を捉えた喜びが綯い交ぜになった一言だった。  ヒトガタは狂ったように頭を振り松下は振り落とされた。向かって数十メートル後方に飛ばされ砂浜を外れたコンクリートに身体を叩きつけられた。バキッと硬いものが壊れるような音がした。音は硬そうなのに松下の身体は何度か跳ねたり転がったりした。それでもツルハシは離さなかった。 「ミナトさん」監視台の陰にいるミナトさんに俺は声をかけた。彼は小さく頷くと、苦しそうに頭を下げたヒトガタに向かって背中の蝋物質を飛ばした。顔に蝋物質を受けたヒトガタが悲鳴を上げる。焦げ臭い。ヒトガタを外れて海に落ちた蝋物質は音を立てて一瞬にして蒸発した。  この時はまだ松下がどうなっているかを見ていなかった。見る余裕がなかった。見てしまったら俺は何もできなくなると思った。石森さんのヘルメットが割れた時みたいに。大泉君、と声を荒げた松下を思い出す。おまえが動かなくてどうする、と叱咤された時のこと。俺は端末を取り出して怪奇種対策庁に繋いだ。応答したのは局長だ。 「大泉君、どう」 「ヒトガタ出現です。推定第四種。記録と松島基地との連携はこっちでするので記録はヒトガタが田代島を突破した時のために避難勧告を」 「了解。気を付けて」
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加