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仰向けに倒れた松下の胸の辺りが濡れていた。黒い作業服だからよく見えないが、多分血だ。それに左脚が変な方向に曲がっていた。松下が「脚、戻して欲しい」と額に汗をかきながら言った。
「腕じゃなかったですね」
「腕の方が良かったか」
俺は小さく首を横に振った。左脚に手を添えると「まっすぐにしておけばいい」と松下が言った。俺は大きく息を吸うと力をこめて脚を正しい方向に戻した。松下が呻いた。
「あと、ここ」ツルハシを離した松下はびしょびしょに濡れた胸を指差す。「服の上からでいい。見たら大泉君は何もできなくなる」
「は、はい」と答える俺の声は上擦っていた。
「血が出てる辺りグッと押して欲しい」
胸に手を置くと、濡れた作業服越しに何かが盛り上がっているのがわかった。骨だ、と思った瞬間俺も変な汗をかき始めた。呼吸が乱れて目の前が霞む。
「変な想像するな」
「変な想像してないです」
「服の下想像しただろ、エッチ」
「エッチじゃないです」
ははは、と力なく乾いた笑いを漏らす松下。早く俺がやらなきゃ。腹を決めて、先ほどよりも大きく息を吸い、盛り上がった部分に一気に体重をかけた。バキッと音がして「あう」と松下が苦しそうに呻いた。ビクリと身体が跳ねる。それから松下は長く息を吐いた。
「ありがとう。おしっこ漏らしてないか」
「え、俺ですか」
「違う。俺」
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