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 股間を見遣り「大丈夫じゃないですか」と答えた。じつは恐怖のあまり俺が少し漏らしたことは言わないでおいた。 「少し寝たい」と松下は言うとすぐに目を閉じた。眠れば傷が直る、とわかってはいたが、動かなくなった松下は死んでしまったかのようだ。俺は鼻を啜った。急に身体が冷えてきた。ヒトガタは海に逃げた。ナライ君とマサムネさんとミナトさんはヒトガタに引きずられて海に消えた。このまま本土に上陸したらどうしよう。町を守れなかったら、石森さんはどう思うだろう。  泣いても仕方がないのに泣きそうになった。眠る松下の姿がぼやける。どうしよう。石巻を守れなかったら。俺は何もできない。 「待たせたなあ!」  声がして顔を上げた。辺りをキョロキョロと見回す。コンクリートよりさらに内陸の木々の隙間から現れたのは、夏に田代島へやって来た時に会った小太りの男、タダヒサさんだった。ダウンジャケットを着込んでいるためさらに太って見える。彼はこの場に漂う湿っぽい空気を吹き飛ばすように「大泉ー!」と声を上げた。「もうおまえはひとりじゃないぞお!」
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