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「てか、事情ってなんですか」と俺は首を傾げた。 「あー、それがね」と壁の時計を見遣る局長。「石森君、寿司取りに行ってけね。お昼の。そろそろ用意できてんでないかな」  石森さんは頷くと部屋を出ていった。それを確かめてから局長は改まった様子で口を開いた。 「石森君ねえ、昔はあんなんじゃなかったんだ」 「はあ」 「見た目も普通で、会話もできたし」 「そうなんですか」 「江戸川乱歩の『芋虫』、読んだことある?」 「いやないっす」 「主人公の旦那さんが戦争で手足なくなって喋れなくなっちゃうんだけどさ、最初はみんなお見舞いに来たり讃えたりしたけど、そのうち誰も来なくなってさ。そんな感じなんだよ、石森君」  で、出たー。古典文学引き合いに出して説明を小難しくする奴ー。俺は「なるほど」と何もわかっていないのにわかっている振りをした。  少しの沈黙の後、局長が椅子に座った。一度目を逸らし再びこちらを見る。 「大泉君、誰とでも仲良くなれるんだって?」 「ええ、まあ、はい」
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