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 市内では名の知れた料亭の寿司という話だが、そんなことよりも俺は石森さんがどうやって栄養を摂取するのかが気になって仕方なかった。  寿司桶はふたり分しかなく、使い走りをさせられた石森さんはスパウトパウチをリュックから出した。ヘルメットのシールドの下にあるキャップのようなものを捻って蓋を取ると穴にスパウトパウチを突っ込む。ギュッと絞って中身を出し切るとヘルメットのキャップを締めた。 「石森君はこれしか食べられないから」と局長が言い、石森さんはデジタルメモに「おかまいなく」と書いた。字の後には巻き寿司のイラストが添えられている。本当は食べたいんじゃないか?  こんな状況で食べても寿司は美味かった。蕩けるような大トロ、身の締まったタイ。初めて食べたクジラの握りは臭みがなく思いの外食べやすい。 「大泉君は実家どこだっけ」 「山形です。大蔵村っていう」 「雪凄いとこだべ」 「あー、はい、そうですね」 「ここは雪もそんなに降らないんだよ。夏もそんなに暑くならないし冬もそんなに寒くならないし。いいとこなんだよお、津波さえなければ」  ガリガリガリガリ、と石森さんのヘルメットから音がした。俺がギョッとすると局長が「あ、今の石森君の笑い声。マイク壊れててや」と言った。あのノイズが笑い声。それにしても一体今の発言のどこに笑いどころが? 「山形だと怪奇種もあんま出ないべ」
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