第1話『私はこの世界の異物だ』

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第1話『私はこの世界の異物だ』

「私はこの世界の異物だ」 おはようございます。はじめまして。こんにちは愛おしい世界。 早くこの悪夢が終わって、穏やかな目覚めが来るように祈って早十年。 私も今年で十七歳となりました。 めでたいですね。幸せですね。そろそろ元の世界に返していただけませんか? 無理ですか。そうですか。 私は鏡の前で諦めと共に、見慣れた顔で溜息を吐いた。 毎日。毎日毎日毎日、毎日!! 鏡の中にいる私に向かって言い続ける言葉は戒めだ。 油断しない様に。驕らない様に。今日も無事生きていく為に。 そう。この地獄の様な世界で生き抜くために。私は今日も慎重に一歩を踏み出すのだ。 鏡の前で身支度を整えて、皺ひとつない堅苦しい儀礼服に着替えたら、朝も早よから地面にぶっ刺さった剣に向かってお祈りだ。 このお祈りが長すぎても、短すぎてもいけない事を私は経験から知っている。 短ければ、気持ちが散っている。体調が悪いのでは? と騒がれて。 長ければ、これから何か大事件が起きるのではないか! 大事件だと教会中が大騒ぎ。 適度な時間が大事なのだ。 という訳で、今日も慣れた仕草でお祈りのポーズを取り、頭の中でカウントする。 今ならストップウォッチの一分チャレンジも優勝出来るくらい、私の頭の中にある時計は優秀だ。 今日も今日とてパーフェクトな時間で、お祈りを終える事が出来た。 うーん。天才。 さて気になる周りの反応は? 「今日も聖女様はお美しいわ」 「朝から聖女様のお祈りを見る事が出来るなんて。幸運だったよ」 「今日も良い一日になりそうだな」 うん。上々。 問題なしという所だね。 という訳で私はキョロキョロと視線を周囲に向ける事なく、歩いていくちょっと前の地面を見ながらゆっくりと進む。 微笑みを浮かべたまま少し下を見て歩く事で、大変おしとやかな人間が出来上がる事を私は経験から知っていた。 まぁ、前世の私がやっていたらどつかれて終わりだろうけど、生まれ変わった私の顔面偏差値はおそらく八十オーバー。 原作ゲームの攻略キャラクター達に紛れても問題ないくらい整った顔立ちをしているのだ。 考えて歩くだけで、誰もが見惚れる超絶美少女聖女様の誕生という訳である。 あまり嬉しくは無いけれど。 しかし、それでも聖女様の振る舞いを辞めるわけにはいかない。 何故なら!! ここが異界冒険譚シリーズの世界だからだ。 ゲームの世界なのか。ゲームの元になった世界なのか。ゲームを元にして出来た世界なのか。 どれが正解かは神では無い私には分からない。 分からないが、あの世界観が狂っている事で有名な異界冒険譚シリーズだ。 例え外伝だとしても油断は出来ない。 どっかに狂った王様が現れて、私がいるこの聖国を滅ぼしに来るかもしれないし。 獣人や魔法使いとの戦争が始まるかもしれない。 何が起きるか分からないけれど、何かが起きれば大抵良くない事が起きる。しかも世界規模で。 いや、個人レベルでも酷い事件が起きるのがこの世界ではあるのだけれど。 というのも、世界観が終わっている事がこの異界冒険譚シリーズでの定番なのだ。 一応私が居るのは外伝世界だし、比較的おとなしい恋愛ゲーム編の辺りだから、世界が滅びるような戦争! みたいのは無いけどさ。 それでも、乙女ゲームモードでも美少女ゲームモードでも、RPG要素はあって、謎に死亡エンドとかあるし。 何よりプロローグよりも前に発生した流行り病が原因で、世界の人口が半分くらい消えちゃうっていう事件があって、しかもそれが後々攻略キャラクター達も苦しめていく事になるんだよ。 当然だけど、この聖国にも病原体は来るし、それで聖教会はぐちゃぐちゃになって、内乱みたいになったりもするんだよね。 ロクな事が起きないな。この世界。 まぁ、まだその流行り病起こってないけどさ。 多分これから大流行するんだと思う。時期ズレてんのかな? いや、お隣のヴェルクモント王国は気味が悪いくらい静かだけど、中はとんでもない事になっている筈だ。 一応この病自体は、乙女ゲームモードなら主人公のエリカ様が! そして、美少女ゲームモードなら隠し攻略キャラクターの、アリスチャンカワイイヤッターちゃん様が何とかしてくれる。 二人とも光の精霊と契約してるし。エリカ様に至っては最初から上位契約。アリスちゃんは主人公であるエリオット君が攻略キャラクターを決めた時点で、彼との約束を思い出して覚醒。 なんでこれで隠し攻略キャラなんだよ。どう考えてもメインヒロインやろがい! と、原作ゲームの怒りをぶつけてても仕方ないや。 という訳で流行り病はそれで何とかなるけど、一番ヤバいのはその後に出てくるドラゴン。 コイツが本当にヤバい。 まぁ? 私も初めてこのゲームをやった時は、ドラゴンとか。笑える。レベル上げてワンパンでしょ。 とばかりにRPG特有のレベルを上げて物理で殴るを、実践するつもりだった。 が、当時のパーティーレベル平均六十五を、ワンパンされました。それが何か? いや、何か攻略サイトによるとドラゴンのレベル、??になってるけど、実際には百二十らしいのよ。 桁一つ増えてますけど? 運営は桁数すら数えられなくなったんか? なんて、煽りをしていても意味はない。 だってここからじゃ声届かないし。 だから私がやるべき事は煽りではなく、どうやってあのドラゴンの脅威から逃れるかという事なのだ。 とは言っても、ドラゴンイベントに関しては、流行り病イベントが終わったらランダムで発生するし、原因も不明。 何かどっかの村に居るという占い師によれば、闇の精霊と契約する事でドラゴンの声が聞こえる様になるとの事だが。 残念。私は光と風しか契約していないのだ。 闇が無い人間で、すまぬ……すまぬ……。 という訳でドラゴンを説得するとか不可能なので、生き残るためには逃げるか、ドラゴンを倒すかしか無いわけだ。 まぁ一番簡単なのは逃げる。なのだが、これは私がアフォ過ぎて取れない選択肢になってしまった。 何故なら……。 「聖女様! おはようございます!」 「おはようございます」 「聖女様!」 「聖女様!!」 はい。私が聖女なんて呼ばれているからですね。 見ろよ。この信仰心に溢れた瞳。裏切ったら火あぶり磔獄門、後処刑である。 嫌だ! そんなのは嫌すぎる!! なら、ドラゴンを倒せば良いだろ! って? いやいやいや。レベル百二十だよ? ちなみにプレイヤーのレベル最大は九十九な。 どうすれば良いんだよ! 無理じゃんか!! 世の中にはテクニカルに戦って倒した人がいるらしいけど、残念ながら私はゲームオタクの変態ではなく、普通の女子高生だったのだ。 そんな超人プレーはしていない。 普通で一般人の私は、乙女ゲームモードでも美少女ゲームモードでも、主人公とヒロインの覚醒による超絶必殺技というゲームシステムが用意した通りのルートで突破しました。 まぁ、それでもドラゴンは倒しきれなくて、山に叩きつけて封印(物理)して終わりっていう感じなんだけれども。 でも、それでもだ!! 一応倒す手段はあるのだ。 主人公さん達が頑張れば! という訳で私、考えました。 どうやらこの世界には美少女ゲームモードの主人公エリオット君が居るとの事なので、彼に誰かを攻略してもらい、ドラゴンを倒して貰う。 そして私は万が一に備えて、乙女ゲームモードにおける最高に天使かつ聖人かつ優しい子ランキング歴代トップ(私調べ)の主人公エリカ様と、美少女ゲームモードにおける可愛いと格好いいを両立する宇宙最強の聖女オブ聖女ヒロインであるアリスちゃんに助けて貰おうと! 私は考えたのである!! そう。例えこの世界が異物である私を排除しようとしたとしても、私がやらかしてしまっても! 二人が居れば、私は何事もなく生きていく事が出来るのだ。 だから私は、全ての苦難を乗り越える為に……美少女ハーレムを作る!! 美少女ちゃん達に護られ、甘やかされて、この最悪な世界を、生き残るんだ!!! 『聖女様は、今日も助かりたい』
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