あなたに届け、メッセージ

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 グラスハンター、という仕事がある。  仕事内容は、草を狩ること。  ただし、ただの草じゃない。死んだ人の、肉体や骨から包み込むように生えてくる植物。それを滅する。  人間は死ぬと、みんな植物になる。  もちろん、どんな植物になるかは人それぞれ違う。  ひっそりと風に揺れているだけのものもあれば、毒を振り撒いたり、周囲の生き物を手当たり次第に食い出す花をつけたりするものもある。だからそういう害があるものは、グラスハンターが狩る。殺す。燃やす。それが誰も傷つけられない状態になるまで、丁寧に滅する。  津田は、舟山という女と一緒にこの仕事をしていた。彼女は十九歳。津田より若くて、けれどこの職種に関して言えば津田より先輩だった。  一緒に働いた。  舟山はいつも黒い手帳をポケットに入れていて、暇な時や煮詰まった時などにそれを取り出す。最初は座右の銘なんかがメモしてあるのかと思ったが、違った。  ————これ? クロスワードパズルだよ。  あの時は確か、冬だった。金属のカニみたいな足を生やしてごうごう荒れ狂う植物を見て、「これは冷凍弾が必要だ」と即座に判断。津田たちは火炎弾と炸裂弾しか持っていなかったため、仲間の増援を待つことに決めてからの一時間。舟山は全くもって慌てることなく、淡々とパズルを解いていた。  ————なんでパズルを?  ————湖が静かになるからね。  ————はい……?  ————頭の中に水面を思い浮かべてご覧。パズル解いてると、そこの波が静まる。波立っている時には正しく映らないものが、平らな水面には正しく映る。……まあ、つまりは『心を落ち着ける』&『正常な判断を下せるようにする』っていう目的だね。  ————はあ、なるほど……。  不思議な人だった。  しかしいい人だった。  津田と舟山はいつしか恋人になっていたし、二人のバディはいつまでも解散しなかった。  そして。  今。  舟山は死んでいる。
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