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「あの、レガリス様。幻聴が聴こえたようです。申し訳ございませんが、もう一度おっしゃっていただけますか?」
「おや、そうかい。ならもう一度言おう」
私は本日三度目に目にする、レガリス様のさわやかな笑顔で、二度目の悪夢を耳にした。
「イリス、君をマグヌス家に送ることになったのだ」
――え?
「これは決定事項なんだ。急に伝えて、驚かせてしまってすまないね」
――え??
「これも、イリスを信用してのこと……。突然で驚いたでしょう、申し訳ないわ」
「……え?」
あまりにおどろいて、つい言葉を洩らしてしまった。
「あの、決定事項というのは……? マグヌス家に、私一人が移動するということでしょうか?」
「あら、呑み込みが早いこと。さすがイリスね」
ほほほ、と笑みを浮かべるレジーナ様はとても優美なのだけれど、私はまだなにも呑み込めておりません!
「レガシス様、レジーナ様。マグヌス家に私一人で行くというのはとても不安です。それに、まだマグヌス家についても何も知らないし、そこでの仕事とかも何もわからなくて――」
「あら、そうね。思えばなにも説明していなかったわ」
ポンと手を打ち、軽くだけれど、とお二人は説明をはじめてくださった。
「移動するのはイリス一人だ。こちらとしても、働き手を減らしたくないのでね」
「仕事内容はファイ家とさほど変わらないようです。マグヌス家の次期当主様の専属メイドになって、ここでのようなお仕事をすればいいだけですよ」
マグヌス家の次期当主……? それって、まさか……。
「レジーナ様。まさかですが、その次期当主というのは……」
「あら、ルナール・マグヌス様に決まっていますよ」
――まさか、だった。
ルナール・マグヌス。マグヌス家の次期当主だが、なにかが気に入らないとすぐにプッツンしてしまう、暴れん坊らしい。私より年下らしいのだけれど、使用人をこき使って楽しむという、最低な男だという噂は有名だ。
「お二人とも、どうか考え直してくださいませんか。私はまだ未熟ですし、次期当主様の専属メイドなんて、そんな大役、勤められそうもありません……」
それに、ルナールの世話係なんて、したくないし! 期待を込めてレガリス様を見るが、フルフルと首を横に振られた。
「悪いがイリス。決定事項なのだ」
はっきりと言われ、絶望。目の前が真っ暗になるって、こういうことなんだろうな……。
「本人に確認もしましたし、早速準備をしてくださいな、イリス。明日の朝には出発しましょう」
レジーナ様の弾けんばかりの笑顔で、私の同意はとっていない大切な話、つまりは『私がマグヌス家へ移動させられる話』が終わった。
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