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「さてと。晩御飯もできたことだし、早くお食事にしましょう」
ビビのその言葉で、他の使用人たちもてきぱきと動いていく。
私がコトリ、とテーブルの上にお皿を乗せ終わると、丁度ルナールが食堂に入ってきた。
「ルナール様こんばんは。ご夕食のお時間です」
「……ん」
短い返事で、私には一瞥もくれずに席に着いた。
「んだこれ」
目の前に置いてあるお皿の中身に驚いたのか目を丸くする。乗せてあるのは、手のひらよりも少し小さなパイである。
「ミートパイです」
「みいとぱい? パイは菓子だろう。なぜ夕食に出てくる?」
そう言って眉をひそめる。ファイ家ではよく作っていたのだけれど、やはりここでは珍しいのだろうか。ビビたちに提案して作っていた時も、随分と驚かれた。
マグヌス領では、パイはお菓子のイメージが強いらしい。だからなのか、アップルパイ、チョコレートパイなど、お菓子としてのパイの種類は豊富でも、おかずパイは無いに等しいらしいのだ。
「これは甘くないのです。中には甘いものではなく、味付けしたお肉が入っています」
「へぇ、珍しいな。お前がアイディアを出したのか?」
「え」
「違うのか?」
「いえ、違いません。私はアイディアを出したというより、ファイ家で仕えていた時に作っていたお料理を、今夜のメニューとして提案しただけです」
驚いた。使用人の中から、私だと当ててくるなんて。でも当たり前かも。ファイ領から来た使用人は私だけだと聞くし。
少し遅れて、ベスティア様もやってきた。
「ルナールは先にいたか。ではいただこう」
食器を手に持ち、初めて見るであろう食べ物を興味深げに口へ運ぶ。
「……!」
ルナールはというと、口に運んだ途端に瞳をキラキラさせて耳をピンと立てた。もっもっと口を動かしながらもう二切れめに移っている。早いな。
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