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クローゼットの扉を開けると、私服と、数着のメイド服が入っている。ささっとたたみ、すべての服をカバンにしまう。
化粧品類やアクセサリーなども、空のボトルはゴミ箱へ放り投げ、中身が残っていたり、まだ使うものだったりだけを袋に詰め込み、カバンに投げ入れる。
本や手紙セット、万年筆なども、割れたり、かさばったりしないように包み、丁寧にカバンのポケットへしまっていく。
家具はファイ家の所持品のため、そのまま置いていって大丈夫。
一通りの荷物整理ができたところで、次は掃除だ。
部屋の隅の掃除用具入れからはたきや雑巾を取り出して、いつものように綺麗にしていく。定期的に掃除をしているからか、それほど汚れは出てこなかった。
「……よし!」
一通りの掃除を済ませると、部屋が随分とすっきりした気がする。仕上げに枕と布団の形を整えると、今にも新たな部屋の主をお迎えできそうである。
フンス―、と満足げに鼻を鳴らしていると、コンコンというノックが聞こえた。
「イリス? 入りますよ」
そう言って部屋に入ってきたのは、レジーナ様だった。
「あら、随分とすっきりさせたのね」
「はい。いつでも交代ができるよう、ベッドメイクも済ませてあります
どうでしょうか、とワクワクとレジーナ様を見ると、少し言いにくそうな顔で言った。
「イリス……。仕事が速いのはとても素晴らしいのだけれど、出発は明日の朝なのよ? 今のうちにベッドメイクを済ませても、あなたは今晩ここで眠るから……」
「……ハッ!」
そうじゃん!私、今日ここで寝るんじゃん!ベッドメイクしても意味ないじゃん!!
「……やってしましました。すみません」
「謝ることはなにもないのよ。そうそう、あなたが出発するとき、家の者全員でお見送りをさせてもらうことにしたの」
「え、お見送り、ですか?」
「えぇ。移動してしまったらイリスはマグヌス家の者となるけれど、それまではファイ家のメイドでしょう? 私たちも、あなたにお返しをしたいの」
「レジーナ様……!」
なんて優しい方なの。一介の使用人である私に、お礼をしたいなんて。嬉しい!
「ありがとうございます!」
「いいのよ。今日はゆっくりなさいな」
レジーナ様が出ていくと、私はふぅ、と息を吐いて、ベッドに横になった。
「今日が最後か……」
ファイ家でのお仕事はすごく好きだった。みんなすごく優しくて、お互いに助け合っていた。
あまりに突然で泣く余裕もなかったけれど、一人になったら、だんだんと胸が締め付けられている気がした。
マグヌス家での仕事はどんなものかわからないけど、ここと同じように、お互い協力できるような人ができるといいな。
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