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「お忙しい中お時間を割いていただきありがとうございます、ベスティア様」
ルナールから透明インクをもらって数日後。私はベスティア様にとある相談をしに来ていた。
お城の塔にあるベスティア様の書斎に入るのは初めてだから、少し緊張する。
「イリス嬢、なにかありましたか? それとも、ルナールがなにかやらかしましたか」
「いえ、そういうのではなく。ファイ家に手紙を出したいのです」
もらってすぐに透明インクで紙に絵を描いたけれど、ルナールの言う通りよく見えなかった。
そのため、初めにもらった、ペンから作ったインクで手紙を書きたい。ずっとお世話になっていたところだし、ソルたちの今も聞きたい。
「そうでしたか。そういうことなら良いですよ。ただし、書き終えたら確認させてくださいね。気づかぬうちにマグヌス家の神髄について書かれていては困りますので」
冗談っぽく笑う。お話しするたびに思うけれど、ベスティア様って茶目っ気があって面白い方だよね。
「ありがとうございます! 早速書いてきます!」
深く頭を下げ、書斎を出て自室へ向かう。
「お」
ウキウキで歩いているところに、まさかのルナールが出現した。
「ご機嫌だな、なんかあったか」
「はい! ファイ家にお手紙を出して良いと許可を頂いたので、早速インクを使って書いてくるのです」
「へぇ」
「ところで、ルナール様もベスティア様に御用ですか?」
「まぁな、そんなところだ」
じゃ、と書斎に向かおうとするルナール。そこで、私は閃いてしまったのだ。
「ルナール様、突然で申し訳ないのですが、一つ聞きたいことがあります」
「なんだ?」
くるりと振り向く。左側にある、大きな窓から差す光が眩しい。
「お食事の時、毎度ベスティア様とお二人ですが、ルナール様の母上様はどこにいらっしゃるのですか?」
どこかの窓が開いていたのだろう。ふわりと髪が揺れた。
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