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ファイ家を出発する朝。身支度を終えて荷物の最終チェックが終わったとき、ドンドン、という、部屋の扉が叩かれる音がした。
「はい、こちらイリス……。誰ですか?」
「イリス―!!」
ガチャリとドアが開いたと思えば、涙目のソルが部屋に飛び込んできた。
「家政婦長から聞いたよぉ! マグヌス家に行っちゃうんでしょ~!?」
「うん、そうなの」
「しかも!」
というと、ソルは部屋の中だというのに周りを見渡し、声を潜めて、手を口元に当てて言った。
「あの、ルナール・マグヌスの専属なんでしょー?」
「うん、そうだよ」
私も同じように声を潜め、手を口元に持ってくる。ふっふっふ、スパイ気分。
「暴れん坊で使用人をいじめて楽しむ、最低な獣人! って噂の」
「そう、そのルナール」
そう返事すると、ソルは整った顔をゆがめて私に抱きついた。
「うわぁぁあ! 心配だよぉ!! お休みのときには、ぜったいぜ~ったい、遊びに来るんだぞ!」
「もちろんだよ!」
ソルをぎゅーっと抱きしめる。
「ねえソル」
「なあに?」
「出発するとき、『ソネソネ☆チカッとダンス』、踊ってくれない?」
するとソルは、ぱぁっと晴れた顔で、「そしたらみんなも誘うね!」と部屋を出ていった。
「ソルは相変わらず突然だなぁ」
出発するまでに、ここのみんなに挨拶をしておこうと思った。ベッドメイクを今度こそ済ませ、カバンを片手に部屋を出た。
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