1 有能メイドは移動だなんて聞いていない

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***  ファイ家を出発する朝。身支度を終えて荷物の最終チェックが終わったとき、ドンドン、という、部屋の扉が叩かれる音がした。 「はい、こちらイリス……。誰ですか?」 「イリス―!!」  ガチャリとドアが開いたと思えば、涙目のソルが部屋に飛び込んできた。 「家政婦長(ハウスキーパー)から聞いたよぉ! マグヌス家に行っちゃうんでしょ~!?」 「うん、そうなの」 「しかも!」  というと、ソルは部屋の中だというのに周りを見渡し、声を潜めて、手を口元に当てて言った。 「、ルナール・マグヌスの専属なんでしょー?」 「うん、そうだよ」  私も同じように声を潜め、手を口元に持ってくる。ふっふっふ、スパイ気分。 「暴れん坊で使用人をいじめて楽しむ、最低な獣人! って噂の」 「そう、そのルナール」  そう返事すると、ソルは整った顔をゆがめて私に抱きついた。 「うわぁぁあ! 心配だよぉ!! お休みのときには、ぜったいぜ~ったい、遊びに来るんだぞ!」 「もちろんだよ!」  ソルをぎゅーっと抱きしめる。 「ねえソル」 「なあに?」 「出発するとき、『ソネソネ☆チカッとダンス』、踊ってくれない?」  するとソルは、ぱぁっと晴れた顔で、「そしたらみんなも誘うね!」と部屋を出ていった。 「ソルは相変わらず突然だなぁ」  出発するまでに、ここのみんなに挨拶をしておこうと思った。ベッドメイクを今度こそ済ませ、カバンを片手に部屋を出た。
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