44人が本棚に入れています
本棚に追加
バタン!! とわざと乱暴な音を立てて自室の扉を閉める。
なんだか妙にイライラして、ビビに相談しようにもそんな気が起きない。
と、机の上に置いていた便箋が目に入った。
「あ、手紙……」
レジーナ様とレガリス様、あとソルに手紙を書こう。
万年筆を取り出して、少し迷ったけれど例のインクを取り出す。使わないのはもったいない。
三人への手紙を粛々と書く。部屋の中には、時計の秒針の音と、万年筆のカリカリとした音が響き続ける。
レジーナ様にはお料理の評判が良かったことを、レガリス様にはマグヌス領の使用人は魔法が使えるということを。ソルには主人との関係が悪くなった時、どうしているかを書いた。
「……できた」
イリスより、とソルへの手紙の文末を結んだ時には、いつの間にか窓の外が紫色に染まり始めていた。
「あ! ご夕食の準備……忘れてた!」
書き終えた便箋をポケットに突っ込み、慌てて厨房へと降りた。
「イリス! どこ行ってたのよ。お料理はできてるから、運んでいってくれる?」
「うん。ごめんね、みんなに任せっぱなしで」
「いいのよ」
どうやら、ビビたちがほとんどやってくれたようだった。ありがたい。
お料理をワゴンに乗せて食堂へと運ぶと、先客がいた。
「……こんばんは、ルナール様」
「……」
見事なまでにスルーされた。それはそうか。あの一言で傷つけてしまっただろうから。
けれど私は専属メイド。嫌われようが何だろうがお仕事はきっちり行います。
「本日のメニューはお野菜とお肉のグラタンです。お飲み物は微炭酸のお水でございます」
「……」
「おや、ルナールはもう先に席についていたのか。ではいただこうかな」
音もなく現れたベスティア様がいつの間にか席について、だんまりとしていた流れを変えてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!