6 有能メイドは考える

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「すごい、ですね」  ファイ領にはなかった技術だ。その代わり、ファイ領には転移魔術を使う郵送手段があった。魔法陣の上に郵送物を置き、一か所に集め、そこから運んでいくのだ。 「イリス嬢には珍しいのでしょうな。これがマグヌス領での郵送です」  魔獣を見送って、ベスティア様は眩しそうに目を細める。  その姿を見て、私はほんのりと心が温かくなった。 「では、私はここで失礼いたします」  ご主人様二人にぺこりと頭を下げ、厨房へ戻る。 「ビビ、もど――」 「イリス!」  私が言い終わらないうちに、ビビが慌てたように言葉を重ねてきた。 「貴女ってば、ルナール様と何があったのよ!」 「何って……。あぁ、ご夕食のときに反応が冷たかったから?」 「そう! ルナール様のご機嫌があんなに悪いなんて、どうしてなの? ご夕食前に最後にルナール様とお話しした使用人はイリスだからなにかあったのかと……」 「それは……」  ビビになんて思われるだろうか。悪気はなかったと言えど、主人であるルナールを傷つけたのだから、嫌われやしないだろうか。そんな、恐れにも似た不安を抱きながら、ことの顛末(てんまつ)を彼女に話す。 「そう、そんなことが……」 「うん……ねえビビ、ルナール様の母上様って、どんなお方なの?」 「それは、私もわからないの。私だけでなく、ほとんどの使用人は知らないと思うわ。ベスティア様もルナール様もお話してくださらないから」 「そうなの……」 「でも、これは言えるわ」  ビビは優しく微笑むと言った。 「この件に関しては、イリスはまったく悪くない」  だってそうでしょう?と、私の手を両手でやさしく包み込む。 「貴女は興味で聞いただけなの。正直にお話すれば、ルナール様もわかってくださるわ」 「そう、かな」  ええきっと、と笑うビビは、記憶に鮮明なガラス瓶の光のように眩しかった。
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