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朝のさわやかな風が外の木々を揺らすのをぼんやりと眺めながら、私は廊下を掃除していた。
穏やかな景色。穏やかな日常。
確かにそのはずだけれど、一つだけ、以前との日常とは異なるところがある。
それはルナールとのこと。
ルナールとはあの日以降、一切口を利いていない。というか、利けていない。
何度も謝ろうと思い話しかけようとしても、それとなく避けられるのだ。
そのため、主人と使用人の関係のはずだけれど――私には魔術練習台の役職もあるが――事務的な会話すらない。
それを見かねてか、ベスティア様やビビたちが関係を気にかけて助け舟をだしてくれることもあるけれど、正直効果はない。
「はぁ……」
瞼を降ろし、ほうきを持つ両手の力を緩めた。
そっと目を開き、ふいにお城の下の道に視線を向けると、なんだか見覚えのある馬車が走ってきていた。
「……え」
目を見開く。何度瞬きをしても見ている景色は変わらない。
カラン、と落としたほうきの音が廊下に響いた。
「聞いてませんよ……」
私は弱々しく首を振ると、落としたほうきをすぐそこの掃除用具入れへ片付け、ベスティア様のもとへ急いだ。
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