1 有能メイドは移動だなんて聞いていない

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「みんなー! 踊って歌って楽しも―!!」 「ウォー!!」  いつもは静かなはずの邸宅のガーデンで、お祭りのようなテンションの使用人たち。すごい絵面だ。そういう私もその中の一人なんだけどさ。 「ソネソネ?」 「チカッと!」 「ソネソネ??」 「チカッと!!」  メイド服でアイドルの曲を歌って踊るかわいい女の子。そんな姿にときめかない者などいるだろうか。 「ソルが……。かわいすぎるんだけど……」  悶絶する私に、ダンス部隊がさらに追い打ちをかけてくる。 「魅せてみてよ?  あなたの気持ち 言葉だけじゃ 届かないの♡」 「私の瞳に 映るのは キラキラ輝く太陽」 「あなたの送る 雪のように 薄い言葉 私の熱で 溶けちゃうわ」 「そんな言葉たち 私に 届けてみせてよ?」 「愛してる♡」  歌が終わると、ガーデンは大歓声に包まれた。 「イリス! どうだった?」  汗をかきながらも笑顔で話すソル。かわいいをありがとう。 「すっごくかわいかった! ひゃ~!! って感じ!」 「ふへへ、よかったよ~!」  弾ける笑顔いただきました。ありがとうございます!! 「さあイリス、出発の時間よ」 「私たちがマグヌス家まで付き添おう」  大興奮している私と真逆に、至極冷静なファイご夫妻に言われ、私は後ろ髪をひかれながらも歩を進める。 「イリス!!」  背中に衝撃を感じて振り向くと、さっきまで歌っていたソルが私の腰に抱き着いていた。 「いっちゃ……いやぁ……」  震える声で言うソルは、先ほどまでの元気な姿はなく、ファイ家のマスコットとしての姿でもなく、ただの一人の少女であった。 「ソル……」 「さみ、しぃ……よぉ……」 「――大丈夫だよ」  私はそっとソルの背中に手をまわし、ぎゅっと抱きしめてあげる。 「お休みの時は遊びに来るって、約束したでしょう?」 「……っ、うん」 「だから大丈夫。心配しないで」 「うん、うん。私、頑張る。だからイリスも」  パッと顔を上げ、私にデコピンをくらわす。 「でぅっ!!」 「頑張らないと、ソル怒っちゃうからね?」  いたずらっぽく笑みを浮かべ、私の背中を押して馬車に押し込む。 「マグヌス家でも、ちゃんとお仕事頑張ること! 私とイリスの約束ね!」  小指を空に突き上げ、二パッと笑う。 「約束!」  私も指を突き上げ、微笑みを返す。 「レガリス様、レジーナ様、マグヌス家への付き添いをお願いします」  私はお二人に頼むと、カバンを膝にのせて馬車の扉を閉めた。
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