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「みんなー! 踊って歌って楽しも―!!」
「ウォー!!」
いつもは静かなはずの邸宅のガーデンで、お祭りのようなテンションの使用人たち。すごい絵面だ。そういう私もその中の一人なんだけどさ。
「ソネソネ?」
「チカッと!」
「ソネソネ??」
「チカッと!!」
メイド服でアイドルの曲を歌って踊るかわいい女の子。そんな姿にときめかない者などいるだろうか。
「ソルが……。かわいすぎるんだけど……」
悶絶する私に、ダンス部隊がさらに追い打ちをかけてくる。
「魅せてみてよ? あなたの気持ち 言葉だけじゃ 届かないの♡」
「私の瞳に 映るのは キラキラ輝く太陽」
「あなたの送る 雪のように 薄い言葉 私の熱で 溶けちゃうわ」
「そんな言葉たち 私に 届けてみせてよ?」
「愛してる♡」
歌が終わると、ガーデンは大歓声に包まれた。
「イリス! どうだった?」
汗をかきながらも笑顔で話すソル。かわいいをありがとう。
「すっごくかわいかった! ひゃ~!! って感じ!」
「ふへへ、よかったよ~!」
弾ける笑顔いただきました。ありがとうございます!!
「さあイリス、出発の時間よ」
「私たちがマグヌス家まで付き添おう」
大興奮している私と真逆に、至極冷静なファイご夫妻に言われ、私は後ろ髪をひかれながらも歩を進める。
「イリス!!」
背中に衝撃を感じて振り向くと、さっきまで歌っていたソルが私の腰に抱き着いていた。
「いっちゃ……いやぁ……」
震える声で言うソルは、先ほどまでの元気な姿はなく、ファイ家のマスコットとしての姿でもなく、ただの一人の少女であった。
「ソル……」
「さみ、しぃ……よぉ……」
「――大丈夫だよ」
私はそっとソルの背中に手をまわし、ぎゅっと抱きしめてあげる。
「お休みの時は遊びに来るって、約束したでしょう?」
「……っ、うん」
「だから大丈夫。心配しないで」
「うん、うん。私、頑張る。だからイリスも」
パッと顔を上げ、私にデコピンをくらわす。
「でぅっ!!」
「頑張らないと、ソル怒っちゃうからね?」
いたずらっぽく笑みを浮かべ、私の背中を押して馬車に押し込む。
「マグヌス家でも、ちゃんとお仕事頑張ること! 私とイリスの約束ね!」
小指を空に突き上げ、二パッと笑う。
「約束!」
私も指を突き上げ、微笑みを返す。
「レガリス様、レジーナ様、マグヌス家への付き添いをお願いします」
私はお二人に頼むと、カバンを膝にのせて馬車の扉を閉めた。
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