お姉さんの赤い傘

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毎朝、パン屋に行くのが日課。 ママは焼きたてのパンが好きらしい。 僕は食パンの耳が好きで、ママが食パンの白いところを食べて、僕が耳をもらう。Win-Winの関係ってやつだ。 キョロキョロしながらパン屋に向かっていると、ごみ置き場のところで山本のおばちゃんがママを見つけて話しかけてきた。 「今日は可燃ごみの日だっていうのに、段ボールや空き缶まで出してる人がいるのよ。こういうの困るのよね。それに、このゴミなんか昨日出したのよ。雨で袋が濡れて破けちゃってる。こういうの誰が掃除すると思ってるのか」 「そうですよね」 ママは少しだけ山本のおばちゃんが苦手なのを知っている。 今日は見つかっちゃったけど、先に見つけた日は、別の道を通るようにしてるから。 乱雑に捨てられた段ボールの下に赤い傘が見えた。 僕はその赤い傘が、お姉さんの大事にしている傘だとすぐにわかった。 きっと間違って捨ててしまったんだ。 だから、ママが山本のおばちゃんに捕まって話をしている間に、そっとその赤い傘を返しに行くことにした。 いつもみたいに、窓の端にかけておくことができたら良かったのだけれど、僕には届かないから、仕方なくドアの前に置いておいた。 あの男か、お姉さんが見たら気がつくはず。 急いで、ママと山本のおばちゃんのところに戻ると、2人はまだ話をしていて、ママは愛想笑いを続けていた。 まだまだ長そうだったから、ママのズボンの端を引っ張った。 「山本さん、ごめんなさい。この子とパン屋に行く途中で」 「あら! あらあら、御免なさい。引き止めちゃったみたいで。コウくんもごめんねぇ」 「じゃあ、失礼します」 山本のおばちゃんに解放されたママは嬉しそうに「ありがとね、コウちゃん」と褒めてくれた。 パン屋から帰ってくると、隣の部屋の前に置いておいた赤い傘はなくなっていた。
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