お姉さんの赤い傘

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次の日はママのお仕事がお休みで、パン屋でパンを買った後遠出して、そのまま河原まで行った。 ラジオ体操をしていた川島のおじいちゃんが僕に気がついて、「今日はママがお休みかい? 良かったね」と声をかけてくれた。 ママは地面が土じゃない所を探して小さなレジャーシートを敷くと、その上に座り、ウィンナーパンを食べ始めた。 欲しいっておねだりすると、端っこをほんのちょっとだけくれた。 「こういうのは体に悪いから」 いつもママはそう言ってたくさんくれない。 自分はカップラーメンとかもっと体に良くないもの食べてるくせに、僕の食べ物にはうるさい。 パンを食べ終えると、ママはレジャーシートを小さく折りたたんでカバンにしまった。 河原をぶらぶらと歩いていると、プードルのキララちゃんが前から歩いてきた。 「前澤さん、おはよう!」 「おはようございます、池田さん」 この池田さんという人とママは仲が良くて、休みの日しか会わないけれど、会うと話が長い。 でも、山本のおばちゃんと違って、ママは楽しそう。 暇だったからキョロキョロ周りを見ていると、赤いものが目に入った。 「あっちに行きたい!」 と、ママを引っ張ると、池田さんとキララちゃんも一緒について来た。 ママと池田さんは話に夢中で僕のことを見ていない。 キララちゃんも、僕のことなんかどうでもよさそうに池田さんの隣に立っていた。 思った通り、その赤いものはお姉さんの赤い傘だった。 この間持って行ってあげたばっかりなのに。 僕の家の2軒隣に住んでいる、谷さんは、息子の京太くんが公園にしょっちゅう砂遊びセットの中のスコップを忘れるって、言っていた。 お姉さんもきっと忘れて帰ったんだ。 今頃探してるに違いない。 ママは池田さんと話に夢中みたいだったから、また前みたいに傘を返して、戻ってくればいいと思った。 それなのに、今回はキララちゃんが吠えたせいで、ママに見つかってしまった。 でも、僕は傘をお姉さんに持って行ってあげるために、ママを無視して走った。
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