第2話 カレンダー

1/1

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

第2話 カレンダー

アスファルトの水たまりに カエルが目だけ出して外をのぞいていた。 雑草の葉っぱに雨粒がたまって、ゆっくりとはじいて落ちていく。 澄矢は、土砂降りの天気の中、びしょ濡れになった服を脱ぎ捨てて、シャワーをしに風呂場に急ぐ。母の祐有子は、ベランダから落ちた澄矢を心配して洗面所の外で待機していた。 「澄矢、バスタオル。ここに置いておくよ!!」 「ああ、わかった!!」 シャワーの音にかき消されそうになって、想像以上に大きな声で話していた。風呂場に反響して、うるさかった。蛇口をしめて、すりガラスの扉をあける。わしゃわしゃといつも通りに体を拭いていく。洗面所の大きな鏡を見た。いつも通りの自分の顔が映っていた。鏡に手をかける。 (俺は生きてるんだよな) ベランダから落ちた瞬間、夢を見ていたような空間にいた澄矢は、本当にここにいる自分は本物なのかと疑ってしまうほどだ。パジャマじゃない姿で白いワンピースの女の子と会っていた。それだけは鮮明に覚えている。 「澄矢!!私、もう、出勤時間だから行くから。朝ごはん、テーブルに置いてたから  食べなさいね」 「え、今日、遅番じゃないの?」 「は?何ボケてるのよ。今日は日勤よ」 「え、嘘、だって、ほら、月曜日は遅番って書いてるじゃん。シフト表に」 「澄矢、なーに寝ぼけたこと言ってるのよ。月曜日は明日よ。時間ないから行くね」 「嘘、んじゃ、今日、日曜日?」 「はぁ?そんなことも忘れたの? 今日は、三日月曜日でしょう。頭打ってどうにかしたのかしら」  呆れた様子の祐有子に澄矢は信じられなかった。祐有子の方が頭がおかしいと思ってしまったからだ。 「カレンダー見てみなさいよ」 「え。カレンダー?」 澄矢は、壁に貼っていたカレンダーを見つめた。日曜日と月曜日の間に三日月曜日というものが存在している。しかも0.5日とも書いてある。今日は、5月12.5日らしい。毎週、0.5日があるようだ。なんでそんなことになっているのか さっぱりわからない。日曜日の次は月曜日じゃなくなった。嬉しいのかどう受け止めればいいかわからなくなった。 「なぁ、母さん、俺、今日学校っていくの?」 「なーに言ってるの。いつものことを。どっちでも良い日だよ。学校行ってもいいし、行かなくても良い日。そういう日って前から決まってるじゃない。私は今日は、仕事したいし、稼ぎたいから日勤の仕事。0.5日の日は職場近くの弁当屋が半額セールしてるからその弁当食べるのよ」 「まじで。超安いじゃん」 「あれ、前にも話してたわよ。同じこと言ってるけど、忘れてるの?  変な澄矢だね。んじゃ、行ってきます」 祐有子は、玄関を出て、マイカーである軽自動車のエンジンをかける。大雨の中、ワイパーを中速にし、シートベルトをして、早々に発進した。 澄矢は窓から走り去る母の車を目で追いかけた。道路は行き交う車や自転車の学生で いっぱいになっていた。 「0.5日か…。俺はどうしようかな」 独り言をボソッとつぶやくと、母が用意したたまごのサンドイッチとパクッと食べた。テレビをつけて朝のニュースをみる。 いつも通りの朝となんら、かわりがなかった。 外では、交差点でクラクションが鳴り響いている。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加