或る蝸牛の災難

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もうそろそろ逃がしてやろうか。 昨日雨だったから、丁度いいだろう。 うん。また捕まえればいいしね! …。帽子にはもう入れないでよね。 あと、数を考えろ。あんなんいたら流石に引くわ。 次は塩かけてもいい? やめたげて! 相変わらず姦しい家族である。 ぼたびたべちゃっ。 だーかーらー!もうちょい優しく出したれよ! 殻潰れたらかわいそうやんか! 内臓入ってるんだってよ? めっちゃ交通事故じゃん! 内臓?!見たい! …。カラつぶれたやついたら、塩かけてもいい? だから、やめたげてっ! !!! 恐ろしや、怖ろしや。 今は縮こまっている場合ではない。 一刻も早くこの場から逃げ去らねば。 雨上がりの湿った土の上を進み、濡れた葉の上に乗り上げる。 如何せん、某は蝸牛。速くは動けぬが、今は必死である。某の中では光の速さともあろうかと思うほど急いでいるのだ。これでも。 ぬめぬめと進みながら、某は想いを馳せる。 二度とあの様な目に遭うのは御免で或る。 正に九死に一生。 途轍もない災難であった。 くわばら、くわばら。 ややその場から離れ、 透明なプラスチック越しではない光と風を浴びて。 某はやっと安堵したのだった。 完
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